“癒し"のダンス の商品レビュー
めちゃくちゃ興味深い… 生きること、人の営みの本質。 淡々と描き綴られているが故によりそれを感ずることができる… (私にとっては、日々自分の癒しであり心を解放する太鼓や、施術者であり受け手でもある鍼灸とも重なった。)
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1968年にアフリカのカラハリ砂漠で3ヶ月間行われたフィールドワーク。クン族の人々がヒーリングダンスを用いて、癒やしの力を共同体的にシェアし、病を治療するシステムについて、癒し手のインタビューや参与観察を元に書いたもの。 クン族の人々の癒やしの力についても一つ一つ興味深いのだが、...
1968年にアフリカのカラハリ砂漠で3ヶ月間行われたフィールドワーク。クン族の人々がヒーリングダンスを用いて、癒やしの力を共同体的にシェアし、病を治療するシステムについて、癒し手のインタビューや参与観察を元に書いたもの。 クン族の人々の癒やしの力についても一つ一つ興味深いのだが、最後にガツンとやられたのは、西洋の精神医療との比較をした著者の一言。 「地域精神科医は、地域で行われる共同的な癒やしの儀礼を、おおいに必要としている。クンの癒し手と比べ、彼らはとても脆弱な立場にある。地域の支援もなく、個人の力で疾患を治癒させることを期待されているのだ。これは失敗を余儀なくされる状況で、治療者と地域との間に反目を生み出すことも多い。変容の教育は、治療者と地域共同体が、おたがいに助け合い、支え合い、癒やしの諸問題をとらえなおすための方法を示唆している。」p418-419 今、『プシコ・ナウティカ』で「そうそう!」と思っていた「地域」の力について、こんなに昔からはっきりと書いていた人がいるなんて。 そして、同時期にそれらの本に出会うなんて。 ヒーリングの力を用いるにしても、それはひとりの個人の枠組みの中で得るものではなく、より大きな文脈の中の一部としての自己という位置取りをしないと生まれてこないのだということがはっきり見えてきて、とてもとても勉強になる一冊だった。なにより、人類学の本にしては読みやすい。
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臨床心理学者の著者は、アフリカのカラハリ砂漠で狩猟採集生活を営むクン(族)が行う「ヒーリング・ダンス」(以下ダンス)に深い興味を持ち、クンとともに3カ月間を過ごすフィールドワークに参加した。本書は、クンのダンスについて「内部に生きる人々の観点から書かれた最初の書物」だ。 クン...
臨床心理学者の著者は、アフリカのカラハリ砂漠で狩猟採集生活を営むクン(族)が行う「ヒーリング・ダンス」(以下ダンス)に深い興味を持ち、クンとともに3カ月間を過ごすフィールドワークに参加した。本書は、クンのダンスについて「内部に生きる人々の観点から書かれた最初の書物」だ。 クンのダンスの特徴は、「薬物を使うことなしに、日常的に変性意識状態に入り、癒しの力を、共同体全体のために解き放つ」ことだ。著者フィールドワークは癒しというテーマに沿って細心に行われていくが、途中から著者がダンスに参加し、癒しを会得したいと感じたことで、世界はさらに広がっていく。 「地球上のさまざまな民族の治癒儀礼について考える上で決定的な理解の鍵を与えてくれる」、人類学や神経学にとっても刺激的で貴重な記録。
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最近仕事に忙殺されており、癒しを求めて手に取ったはずの一冊だったのだが、癒されるどころかギンギンに興奮してしまった。 主人公はボツワナの北西部にあるカラハリ砂漠で狩猟採集を営むクンの人々。このクンの成人の1/3以上が、薬物を使うことなしに、日常的に変性意識状態に入ることができる...
最近仕事に忙殺されており、癒しを求めて手に取ったはずの一冊だったのだが、癒されるどころかギンギンに興奮してしまった。 主人公はボツワナの北西部にあるカラハリ砂漠で狩猟採集を営むクンの人々。このクンの成人の1/3以上が、薬物を使うことなしに、日常的に変性意識状態に入ることができるのだという。 変性意識状態とは、通常の日常的な意識状態とは別レイヤーに存在するものである。その一つの例が超越体験であり、これが彼らの社会においては癒しのプロセスとして組み込まれているのだ。 本書は、そんな不思議な世界観を持つクンの人々を、徹底的なフィールドワークによって描き出した一冊である。 クンの文化、この癒しの伝統の中核にあるのは、夜を徹して踊るヒーリング・ダンスである。村全体が参加するダンスこそ、クンの癒しの中心となる出来事なのだ。火を囲んで座り、歌う女たちのまわりを、男たちが踊り続ける。深刻な病、急病、大きな獲物が取れた時、ただ踊りたい時、日々のあらゆる基本的な活動はダンスに集約されている。 すごいのはここからだ。踊りが激しくなるにつれ、男女の癒し手のうちにある「ヌム」という霊的なエネルギーが活性化される。体内にあるヌムが活性化されると、癒し手は「キア」と呼ばれる高次の意識状態になるのだ。ちなみにヌムは、みぞおちと背骨の基底部に宿っており、激しく踊り続けると内側のヌムが熱くなって蒸気になる。そしてヌムが背骨を上昇し頭蓋骨の底に達すると、キアが始まるそうだ。 彼らはキアに入ると、日常では考えられないような行動をする。癒す、火をつかむ、火の上を歩く、人体の内部やキャンプから遠く離れた場所をはっきり見る、神の家へ旅する。その描写の数々は、衝撃の連続だ。 さらに彼らの社会で特徴的なのは、この癒しの力を共同体全体で分かち合う精神を持っているということである。狩猟採集民として獲物を分かち合うように、ヌムの力を分かち合い、新たな癒し手が成長するように手助けもしたりするのだ。 クンの人々にとって、癒しは治療や医療としても使われている。キアの変性意識状態に入ると患部が黒く見え、それを抜き出して癒すことができるそうだ。結核や感染症ですら、ダンスを通じたヌムの力で治癒してしまうというから驚くほかはない。 そんな彼らの世界にも、少なからず西洋医学の影響が及び始めている。しかし面白いのは、クンの人々は、ほかの医療システムの要素も、ヒーリングダンスの伝統と融合してしまうということである。抗生物質をダンスと合わせて使用することなどもあるそうだ。 また資本主義化の波も押し寄せている。癒し手の中の第二世代には、クン以外の人々に癒しを行い、その対価として報酬を受け取ろうと考えているものもいる。本書のフィールドワークが行われたのは、1960年代とのことだが、その後の彼らの行く末は、はたしてどうなっていったのであろうか。 一見するとにわかに信じ難い話でもあるのだが、それでもクンの人々のインタビューを読みながらフムフムと思わずにいられないのは、彼らの社会がアフリカの大自然という環境や、狩猟採集民としての古くからの文化と密接に結びついているからなのだと思う。 この不思議な世界をどのように評していいのか、皆目見当がつかない。見かけはマイムマイムなのだが、メカニズムはドラゴンボールの元気玉のようであり、効能はドラゴンクエストのベホマズンのようなものである。 自分自身の既存の文脈では決して理解することのできない深遠なる世界。本書で得られるのは、まさに超越体験だ。
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