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異貌の人びと の商品レビュー

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2020/03/15

筆者の上原善広は基本的に「くそ野郎」と言われても仕方がない、アウトローな男です。 ただ、それを分かるように書くその姿勢は嘘が感じられなくて僕は好き。 時としてはた迷惑としか思えないような言動をするし、本作での取材も自分でジャーナリストだと名乗っているだけの有象無象に過ぎないので、...

筆者の上原善広は基本的に「くそ野郎」と言われても仕方がない、アウトローな男です。 ただ、それを分かるように書くその姿勢は嘘が感じられなくて僕は好き。 時としてはた迷惑としか思えないような言動をするし、本作での取材も自分でジャーナリストだと名乗っているだけの有象無象に過ぎないので、行動に責任感もない。でもそこに何か現地の真実のようなものを救い上げる無造作なパワーを感じます。 書いたとき既に10数年前の事を書いていて、しかも9年くらい前の本なので時期的には上原氏が20代なのでぐつぐつ煮詰まっている時期だったんだろうと思います。 色々な国の被差別者の姿を見たい。それは日本の被差別部落に生まれた彼だからこそ、さらにグイっと一歩踏み込める強みになっていると思います。 表紙に美しいロマ族の女性が映っていてとても心惹かれます。本書の中でもロマ族の娼婦との生命力あふれるシーンがなんとも官能的(行為はありません)。行為をしなかった彼の後悔がなんとなく僕の心にも流れ込んできてとても印象的なシーンになっています。読んだ人みんなそのシーンが頭にこびりつくんじゃないかな。 そして、サハリンの少数民族の事を書いているのですが、今回の直木賞を受賞した「熱源」ととても被る内容だったので、とても素晴らしいタイミングで読んだんだなとうれしく思いました。ギリヤーク族の人々の姿が書かれていて胸が熱くなります。あの熱源がどれだけ史実に則っているかは知りませんが、あの本は日本人必読の書でしょう。 脱線しましたが、本書はガザ地区にまで乗り込んで危険な状態の中を準備無しでうろうろしている姿はジャーナリストからは眉を顰められるでしょう。彼が死んだらまた世論がジャーナリズム全般への批判に舵を切った可能性もありますから。 でも、こんなに現地の状況を生々しく見てきた本もないんじゃないかと思います。そういう意味では副読本的に読むのにとても良い本かもしれません(王道ではないという意味で)。

Posted byブクログ