境界と自由 の商品レビュー
近年『法論の形而上学的定礎』の再評価が進む中で、カントの普遍妥当性を有する法への志向が高く評価されているが、本研究書は、そのような潮流に一石を投じる主張を展開している。極めて大雑把にまとめてしまえば、普遍性を志向するカントの理性法論において、なぜ世界国家(あるいは世界共和政)の構...
近年『法論の形而上学的定礎』の再評価が進む中で、カントの普遍妥当性を有する法への志向が高く評価されているが、本研究書は、そのような潮流に一石を投じる主張を展開している。極めて大雑把にまとめてしまえば、普遍性を志向するカントの理性法論において、なぜ世界国家(あるいは世界共和政)の構想が提出されないのか、という問題が本研究の中心に位置していると思われる。この問題に対する解答は、所有権や「パトリオティズム」の基礎としての「土地」へのカントの特別のこだわりだとされている。そのような観点のもと、『法論』における「可想的占有」の概念や土地所有主体の観念が再検討される。また狭義の公法論については、カントの国家構想が代表原理と同一性原理を間を揺れ動いているという解釈が提示され、カントの直接立法へのこだわりを強調するマウスのテーゼが相対化されている。本書の結論は、カントの理性法に基づく国家構想においても、土地や公民権の規定において何らかの線引が必要とされているが、それは今日でもアクチュアリティを失っていない思想である、とまとめることができるだろう。
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