日本社会の生活不安 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
国立社会保障・人口問題研究所の編著なので、データだらけなのは確かだけれど、一方、その分析がコミュニティの崩壊やコミュニケーション力の劣化、グリーフケアの必要性などといった極めて情況的な分析を加味されていく過程が面白い。
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本書は、日本という国の貧困をデータを駆使して赤裸々に明らかにした良書である。 「国立社会保障・人口問題研究所」が2006年に行った「社会保障実態調査」をもとにした日本の「貧困」の実態を詳細に分析した本書の内容は、学術的に緻密なものであるが、決してわかりにくいものではなく、私た...
本書は、日本という国の貧困をデータを駆使して赤裸々に明らかにした良書である。 「国立社会保障・人口問題研究所」が2006年に行った「社会保障実態調査」をもとにした日本の「貧困」の実態を詳細に分析した本書の内容は、学術的に緻密なものであるが、決してわかりにくいものではなく、私たちの身の回りで見聞きする現実の社会の姿を描き出している納得がいく内容であると合点する思いがした。 本書で描写されている「貧困率16㌫」のリアルな姿は、いままで実証があまりされていなかった実態をはっきりと描き出している。現在の日本は、7、8世帯に1世帯の割合で「現代社会において当然のごとく達成されていると考えられてきた生活水準が達成されていない状態」なのであるという。 「子どもの貧困」の実態も衝撃的である。本書によると「わが国の子どもの貧困率は1985年の10.9㌫から2009年の15.7㌫まで一貫して上昇の傾向にある」という。この「子どもの貧困率」は国際的にも高い数値であり、その「貧困が大人になってからの人生に影響を及ぼす経路」とそれによる「貧困の世代間連鎖」の内容は衝撃的である。 また「パラサイト・シングル」もかつての「学卒後に親と同居して基礎的生活条件を依存し、余裕ある生活を楽しむ未婚者」というリッチな姿から、「親の収入が少ない。親の介護が必要」という理由の増加などに変化した現実がよくわかった思いがした。 本書によると、2000年代半ばの日本の高齢者の貧困率は20.5㌫。欧州諸国の約10㌫と比較するとだいぶ高く、しかも日本の高齢者の独居世帯の貧困率は47.7㌫だとは驚く。「こども世帯と同居せず、未婚のままで老後を迎えたり、あるいは配偶者に先立たりするなどして、ひとりで老後をすごすことになると、半分近い確率で貧困線以下にとどまるというのが日本の現実である」というのだ。 それにしても、これが、かつて「一億総中流」といわれた国のなれの果てなのだろうかと嘆息する思いがした。本書は、日本の現実の姿をはっきり認識できる良書であるが、その現実の姿は決して快いものではないものであると思った。
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