子ども落語家りんりん亭りん吉 の商品レビュー
冒頭から「どこまで早熟やねん!」って描写が並ぶ。 だってこの本の主人公『りん吉』こと本名:凛夏(りんか)さんとお母さんとの小二のときのやり取りは次の通り。 『夏休み。お母さんに「アニメの映画でも見に行く?」と誘われたとき、「そんなんええねん、寄席(よせ)につれてって。」「えっ、寄...
冒頭から「どこまで早熟やねん!」って描写が並ぶ。 だってこの本の主人公『りん吉』こと本名:凛夏(りんか)さんとお母さんとの小二のときのやり取りは次の通り。 『夏休み。お母さんに「アニメの映画でも見に行く?」と誘われたとき、「そんなんええねん、寄席(よせ)につれてって。」「えっ、寄席?」「うん、いっぺん、落語が見たいねん。」 …二年生の新学期、凛夏が学校の図書室で借りてきたのは、目立たない地味な表紙の古い本。「好きやね、その本。おもしろい?」「うん!セリフがね。ほら見て、この絵、ものすごくかわいいやん。」と凛夏は「定吉(さだきち)」という名前の丁稚(でっち)が出てくる落語「平林(たいらばやし)」のページを広げた。…毎日、絵を見ながらセリフを読んでるうちに、凛夏は本当の落語を見たくなったのだ。』 ピアノの演奏会でもとびきりの舞台度胸を見せてた凛夏さんが、小学2年生にして、ほんの好奇心から落語をやりはじめ、家族の協力もありーの、地元有志の落語会の厚意もありーの、プロの落語家さんが小学生としてだけではなく、落語に真剣に向かう“同志”として厳しくも温かく接する場面もありーので、落語を通じたいろんな体験や、人との出会いがいっぱいこの本に詰まっています。 一方で、プロの厳しい世界の一端にもふれる場面もあって、私が小学生(特に低学年)のころなんか、やれ特撮やら、やれ電車やら、やれ駄菓子屋のおもちゃやら、そんなガキっぽい世界に全身つかってたのに、りん吉が落語の真の厳しさにぶつかって、それでも落語のすごさや面白さをあらためて感じて前を向いて進もうとする描写を読むと、もう、全身全霊でりん吉を応援したくなった。 だけど、りん吉には、あくまで自分なりのペースで落語に向き合ってほしい。私は無理にプロになる必要なしと思ってるし、凛夏さんなりの距離で一生かけて落語と付き合えばいいとも思ってる。なぜそう思うかと言うと、これだけ小さいときから様々な経験をすると、ある時点でいわゆる「燃え尽きて」しまうんじゃないかって、余計な心配をしてしまうから。 だから、浪曲師の春野恵子さんみたいに、勉強の道から芸の世界に入るのもよし、この本にも出てくる、私も好きな桂三金(さんきん)さんのように、会社勤めを経て落語家になり、その経験を創作落語で存分に生かすのもよし。もちろん、別の道に進んで、アマチュアとして、決まった型にはまらず、りん吉の魅力とオリジナリティ全開の落語をしていくのもよし。りん吉のこれからの人生、ある意味、落語家のお決まりパターンにしばられずに、自分の思うように落語と付き合って、どんな形であれ、それを高座から今までと同じような落語への熱い思いとともに伝えてくれるのなら、いつまでもいつまでも、私と同じく、りん吉落語を聞きたい、聞かせてほしいっていう人は途切れないはず。 追記 最後に凛夏さんの座右の銘が書かれているんだけど、「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とす。能々吟味有るべきもの也」だって。宮本武蔵「五輪書」の一文だよ。うーん、シブいにも程がある(笑) (2014/9/16)
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