「政治主導」の教訓 の商品レビュー
御厨教授の還暦退職記念として、御厨貴教授に薫陶を受けた研究者や官僚等の実務家12名による「政権交代研究会」の2年間にわたる活動の成果をまとめた論文集。本論文集は、民主党政権への政権交代をテーマとし、民主党政権が進めた「政治主導」を検証し、そこから今後への教訓を得ることを目的として...
御厨教授の還暦退職記念として、御厨貴教授に薫陶を受けた研究者や官僚等の実務家12名による「政権交代研究会」の2年間にわたる活動の成果をまとめた論文集。本論文集は、民主党政権への政権交代をテーマとし、民主党政権が進めた「政治主導」を検証し、そこから今後への教訓を得ることを目的としている。 総じて、民主党政権が目指した「政治主導」の問題意識・理念は評価しつつ、実態としては、脱官僚による混乱や意思決定の政府への一元化の頓挫など、行き詰まりや迷走が目立っていると指摘している。その原因として、第二に、民主党にマネジメント能力にたけた人材が少なかったことや、政党としての性格がそもそも分散的であり、団結して事に当たったりリーダーシップの発揮を許したりすることに不得手だったことを挙げる。そして、民主党政権の「政治主導」から導き出される教訓として、1)政治家がさまざまな経験を積み、政府を運営するに足る能力を蓄えること、2)われわれ国民は、とくにマスメディアは、政権交代時代に適合できる政治家を育てる寛容さが必要ではないかということ、3)官僚も自ら変革を回避できないし、回避すべきではないということを指摘している。 ほぼリアルタイムでの民主党政権の「政治主導」の分析として、研究者と内部プレーヤーでもある官僚等の実務家の視点から、非常に興味深く、示唆に富んだ内容であると感じた。個々の論文についても、面白いものが多かった。特に、1)政官の役割分担についての示唆に富む「余はいかに脱藩官僚とならざりしか ●変革期における官僚の論理と倫理を求めて」(荻野徹)、2)官僚組織は、民主党政権に対して「縄張りの応答性」は高かったが、「中身の応答性」は低い傾向にあったと指摘する「政権交代・政治主導と官僚組織の「応答性」」(佐脇紀代志)、3)「調整」をキー概念に、「前の調整」「後ろの調整」「横の調整」という概念を用いて民主党政権の意思決定過程の変遷を分析した「「脱官僚依存」と「内閣一元化」の隘路 ●「前の調整」・「後ろの調整」・「横の調整」」(木寺元)、4)財務省が用意した「論点ペーパー」と仕分け人の評価結果は8割が合致していることを示し、事業仕分けにおける査定作業には財務省の意向が強く反映されたことを明らかにした「事業仕分けの検証――「予算編成」としての限界と「行政改革」としての可能性」(手塚洋輔)などが興味深かった。
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【読書その90】東京大学教授の御厨貴氏の下に結集した現役官僚と若手研究者で構成された研究会が、政治主導と公共政策、政権交代と政治構造を主なテーマとしてまとめた論文集。 印象に残ったのは、①東大准教授の菅原琢氏の内閣支持率の乱高下の背景を探った論文と②現役官僚(内閣官房:警察庁)の...
【読書その90】東京大学教授の御厨貴氏の下に結集した現役官僚と若手研究者で構成された研究会が、政治主導と公共政策、政権交代と政治構造を主なテーマとしてまとめた論文集。 印象に残ったのは、①東大准教授の菅原琢氏の内閣支持率の乱高下の背景を探った論文と②現役官僚(内閣官房:警察庁)の荻野徹氏の変革期の官僚の論理と倫理を扱った論文、③同じく現役官僚(経産省)の佐脇紀代志氏の政治主導と官僚組織の「応答性」。 同じ官僚としてやはり②と③の論文について、自分自身の政権交代後の状況を考えながら非常に興味深く読んだ。③の佐脇氏の論文の「縄張りの応答性」と「中身の応答性」という考え方は、非常に面白く、納得性がある。
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