古井由吉自撰作品(1) の商品レビュー
古井由吉さんの小説は初めて読んだ。 杏子・妻隠・行隠れ・聖。 すごく感覚的な感想なのだけど、共通していたのは、読み進めていくうちに、まず客体の輪郭が溶けだし、境界線がにじんで浸透圧のようにあふれだす。 気づかぬうちに主体や別の客体もあやふやになり、中国の太極図から渦のように混じ...
古井由吉さんの小説は初めて読んだ。 杏子・妻隠・行隠れ・聖。 すごく感覚的な感想なのだけど、共通していたのは、読み進めていくうちに、まず客体の輪郭が溶けだし、境界線がにじんで浸透圧のようにあふれだす。 気づかぬうちに主体や別の客体もあやふやになり、中国の太極図から渦のように混じりあい認識がどんどん変化していく。そして登場人物に感情移入した読者も、当然その渦に飲み込まれ自分の一部が流入した感覚に陥る。 その過程が読書の枠組みを超えて体験になるんだなと思った。 杏子・行隠れの女性たちには、好意よりも嫌悪が先立ち、いちいちムカついて、だからわりと線引きして読めた。 世の中や他人と相容れない感覚を、恥より先に誇ってしまう人間とは相いれない。ましてそういう人たちを好んでしまうってのも、自分にはないから。 自分を損ねる関係性ってのはひどく不健全だよな、と自身の古傷をなめつつ、不吉な渦潮を船上から眺めている気分で、読み進める。 おそらく性的な部分も含めて、この狂いの感覚は強烈な磁力を放っていると理解できる。だからこの小説は恐ろしい。 そして聖。 流れ者的な性質をもつ主人公には憧れもあり、昔から好きで、端的に言ってしまえば、主人公と自分を重ねて読んだ。 読んでいる最中、比喩でもなんでもなく、ぐらぐらと眩暈がした。 狂いの部分が個人ではなく、社会制度(村のしきたり)になって、登場人物たちは否応なしに飲み込まれていくのだけど、圧倒されてしまった。
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初めてこの方の小説を読みました。 描写がすごい。驚くほど子細なことを丁寧に書かれていて、このせいで読みづらいのか…読みづらい…進まない…。 でもすごいものを読んだと思った。こんなに心の機微を綿密に描写した小説を他に知らない。 文学的価値が高い、玄人向けな感じ。 物語としては行隠れ...
初めてこの方の小説を読みました。 描写がすごい。驚くほど子細なことを丁寧に書かれていて、このせいで読みづらいのか…読みづらい…進まない…。 でもすごいものを読んだと思った。こんなに心の機微を綿密に描写した小説を他に知らない。 文学的価値が高い、玄人向けな感じ。 物語としては行隠れが一番好きでした。描写はやっぱり杳子がすごいなーと思った。ああでも、こう書いてたらやっぱり杳子かな。杳子は、中盤までは退屈なのだけど、杳子の家に行って姉が登場してからとても楽しく読めた。
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『聖』のみ読了(読書会の為)。水の描写がおもしろいと思いました。古い作品なのに、古さは感じられない。村の感覚と、都会の感覚は多分今とかわらないのかも。
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- ネタバレ
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古井由吉 自選作品 1 杳子 妻隠 行隠れ 聖 がおさめられている。 朝吹真理子の解説も趣深い。 主人公が男であって、いつも女を観察している。女の腰つき、足が不自由である身体的特徴、首筋の香りなど外面的な判断を男はいつもしている。男に洞察される女は、いつも神経的に病んでいる。しかし、男はそれに同調したりするのではなく、考えていない。幽霊的な存在にみているのではないかと、感じる。小説全体としても、霊的な不穏さを抱えているのだが、 女の内面的思考と男の肉体的思考や現実的段取りの考え方が露わに出ている。
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