「伝える」ことと「伝わる」こと の商品レビュー
統合失調症について知りたいと思って読んだら、論文やエッセイなど内容が雑多だったのでその目的には及ばなかった。 とはいえ「焦りとゆとり」、「アンテナ」、「反移転」など断片的にだが理解をしていっている。 医学のことはわからないので、ところどころ薬の名前や専門用語など多く難しいが、読...
統合失調症について知りたいと思って読んだら、論文やエッセイなど内容が雑多だったのでその目的には及ばなかった。 とはいえ「焦りとゆとり」、「アンテナ」、「反移転」など断片的にだが理解をしていっている。 医学のことはわからないので、ところどころ薬の名前や専門用語など多く難しいが、読んでいて面白いところは面白い。知の巨人感。
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ほとんど全編、精神医学上のことを扱った文章群である。具体的な患者への接し方については、こと精神医学だけに限らず、あらゆる人間関係においても心掛けたいことなのであろう。 精神医学に携わっている人には興味深い本であろうが、門外漢にはいささか読み進めるのが重たい書物であった。
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枠組みによって心理状態が変わるという仮説がおもしろかった。 あと面白かったのが、宗教施設は普通は対象であったり、彫刻をしたりするものであるが、オウム真理教はプレハブ小屋で極端にすべてを取り払ったことで既成宗教と違うものを打ち出そうとした。既成宗教と違うものにするためには、装飾を極...
枠組みによって心理状態が変わるという仮説がおもしろかった。 あと面白かったのが、宗教施設は普通は対象であったり、彫刻をしたりするものであるが、オウム真理教はプレハブ小屋で極端にすべてを取り払ったことで既成宗教と違うものを打ち出そうとした。既成宗教と違うものにするためには、装飾を極端に取り払うしかアプローチが残っていなかったという指摘は面白いと思った。
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愛読してきたこのシリーズ、今回は短い文章が多く、多様で、発表年代も80年代を中心に、70年代、90年代、2000年代とまちまちである。 いつも感想で書くように中井久夫さんの精神医学は、めざましい体系を持たないかわりに、臨床医学に徹した、実際経験に基づいて練られた思考に満ちてい...
愛読してきたこのシリーズ、今回は短い文章が多く、多様で、発表年代も80年代を中心に、70年代、90年代、2000年代とまちまちである。 いつも感想で書くように中井久夫さんの精神医学は、めざましい体系を持たないかわりに、臨床医学に徹した、実際経験に基づいて練られた思考に満ちている。医者が自らの治療行為について、どのように意識化し、内省しうるのか。中井さんはひたすらに誠実であり、本職の精神科医師で中井さんを尊敬している人が多いらしいこともうなずける。 実践的な思考といっても、それは驚くべき博識や文学・芸術センスにも支えられていて、やはり、読んでいて刺激的だ。 この巻ではとりわけ、統合失調症と「言語」について書かれた部分が興味深かった。 「妄想と言語との間には、非常に密接な関係があって、ある種の言語的な営みのうちに妄想というものが作られて行くのではないか。」(P.129) 「会話とは、二人で一つの文章をつくり上げることをめざすのだ。統合失調症の人相手の場合は、これが起こらない。この相手とつなぐ継ぎ穂が弱まっているように思える。」(P.143) さらにヴァレリーを引用しながら、「交換」における言語活動を指摘するが、ソシュールではなくここでヴァレリーが登場するあたり、独特である。中井さんはポール・ヴァレリーにとても興味をもっているようだ。 フロム・ライヒマンのことばながら、この本に引用されていた「統合失調症者のもっともよく治った形は芸術家である。」(P.209)というのもおもしろいと思った。 ついでに、最後の方に文章作法、翻訳の作法に関する短い文章も載っている。
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中井久夫コレクションの4冊目。筑摩書房の当初の予定では全4巻だったはずだが、あとがきで著者自身が5冊目の発刊を予告しているので、数ヵ月後にはもう一冊中井久夫の本が読める。このニュースだけでもしばらく希望をもって生活できる。 中身については、著作集第1、2巻を中心に編集されただ...
中井久夫コレクションの4冊目。筑摩書房の当初の予定では全4巻だったはずだが、あとがきで著者自身が5冊目の発刊を予告しているので、数ヵ月後にはもう一冊中井久夫の本が読める。このニュースだけでもしばらく希望をもって生活できる。 中身については、著作集第1、2巻を中心に編集されただけあって、精神医学臨床上の話が多く、比較的難易度は高いと思われる。しかし、後半には磯崎新との対談があったり、ヴェルヌやユングなどの読書にまつわる小文も収録されており、バラエティは豊富である。個人的には磯崎新との対談が意外にもおもしろかったが、誰もが唸ってしまうのはおそらく「私の日本語作法」と「翻訳に日本語らしさを出すには―私見」だろう。日本語の書き手としてはおそらく当代随一の著者が日本語の書き方について指南するのだから、日本語を書くすべての人必読である。それも繰り返し。 あと、この本の本文最初のページに、 「臨床眼というものは神秘的なものではなく、細部の積み重ねの上に発現するもので、それ自身を求めて祈っても甲斐ないものである。」 とサラリと書かれているが、臨床眼に限った話ではなく、あらゆる種類の夢や目標をもつすべての人がこころに留め置くべき言葉だと思う。
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