トーイン の商品レビュー
アイルランド神話を著者が現代英語に翻訳し、それを更に邦訳したのが本書。アイルランド神話の中でもかなり有名な物語で、クー・フリン(クーフーリン)の名前だけは何処かで知ったことのある読者が多いのではないか。 既に邦訳されている2冊からも解る通り、著者はかなり神話や伝承に造詣が深いよう...
アイルランド神話を著者が現代英語に翻訳し、それを更に邦訳したのが本書。アイルランド神話の中でもかなり有名な物語で、クー・フリン(クーフーリン)の名前だけは何処かで知ったことのある読者が多いのではないか。 既に邦訳されている2冊からも解る通り、著者はかなり神話や伝承に造詣が深いようで、本書にもかなり詳細な解説がついている。なので神話の背景がサッパリでも、そちらを読めば、何とか着いて行けると思う。 それにしても、色々な意味でぶっ飛んだ内容で凄かった。
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アイルランド神話の中の有名な牛を巡る闘いの物語である。約80話からなるアルスター物語(ウリズ族の偉業をたたえる物語群)の1つだという。 古代アイルランド語で書かれた物語を、詩人キアラン・カーソンが英訳し、それを邦訳した、一次資料にごく近いもので、抄訳ではない。 女王メーヴが雄牛...
アイルランド神話の中の有名な牛を巡る闘いの物語である。約80話からなるアルスター物語(ウリズ族の偉業をたたえる物語群)の1つだという。 古代アイルランド語で書かれた物語を、詩人キアラン・カーソンが英訳し、それを邦訳した、一次資料にごく近いもので、抄訳ではない。 女王メーヴが雄牛を欲しがったという、実にささいな発端から、アイルランド連合軍対アルスター国(主に英雄クー・フリン)の壮絶な死闘が繰り広げられる。 血湧き肉躍るを通り越して、血が吹き出し、肉片が飛び散る凄まじい戦闘である。だが、そこには悲壮感というよりも突き抜けた明るさがあり、血なまぐさいはずなのに爽快感がある。 読んでみると、口承文学というものの一面を見た気にさせられる。 大きくいえば、「牛を巡る闘い」ではあるのだが、笑える話、悲しい話、地名の由来、詩など、とりどりである。 モチーフがあって、それをその時代時代のさまざまな語り手が膨らませていったのだろう。大きなオブジェのうち、気に入った部分を自分の持てる技で飾り立てていくように。聴衆の反応を見つつ、ある意味、聴衆と一緒に作り上げていく。 だから、出来上がったものを一歩引いてみると、不思議なごたまぜになっている。細部を見ると美しくても、全体を見ると捉えどころのない怪物のようだ。 語る人がいて、聞く人がいて、その瞬間が大事なのだとすれば、全体の調和とか、辻褄が合うかどうかとかは、さほど重要ではないのだろう。 壮大な、カバーとリライトの寄せ集めと言えるのかもしれない。 裸の女達を見て紅潮し、樽一杯の水を湯にしてしまうクー・フリンに笑い、旧友フェル・ディアズと闘う羽目になり、彼を殺して悲しむクー・フリンとともに悲しむ。 助けてくれるかもしれない医者をばったばったと殺してしまう瀕死の英雄ケルセンに呆れつつ笑う。 人格的には破綻していると思うのだが、不思議に魅力的な強き女王、メーヴに惹かれる。 どこか、人の快楽の根源に迫るような荒削りの魅力。 残虐だったり、猥雑だったり、大脳辺縁系に直接がつんとくるような、ある種、野蛮な快感に飲まれる。「語り」が創り出す、すこーんと抜けた明るい血みどろのスペクタクルに目を見張る。 その魅力の謎を解くのは多分、一筋縄ではいかない。 一度取り憑かれたら抜け出ることもままならぬ、物語のラビリンスが、きっとこの奥に待っている。 *でもまぁそうはいうものの、やはりケルト神話の基礎知識があった方が楽しめた物語のような気はする。ケルト神話ダイジェスト、みたいな本も読んでみようっと。 *巻末の著者らによる一連の解説が秀逸。そういうことか、と腑に落ちました。 *著者による解説の一節に、「風景を記憶の地図とみなす」とある。著者がかつてあったことがある、生き字引といわれたタニー翁は、風景にまつわる歴史を語り、歌を歌ったという。何だか、オーストラリア・アボリジニを描いたチャトウィンの『ソングライン』http://booklog.jp/users/ponkichi22/archives/1/4862760481を思い出す。 *コンホヴァルが招集する族長たちの羅列は、エーコの『芸術の蒐集』http://booklog.jp/users/ponkichi22/archives/1/4887217870を思い出させる。
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いやー、山岸涼子の「妖精王」のイメージしかなかったものですから・・・。クー・フリンってこんな感じなのね。
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12/29 読了。 本文を読むだけではなく、著者あとがき、原註、訳者あとがき、翻訳者の井辻朱美さんによる解説の全てが有機的に結びついて、「トーイン」という物語ないし口承文芸の現代的解釈を立体視することができた。
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