大阪船場おかみの才覚 の商品レビュー
“ごりょんさん(ご寮さん)”とは、京都にくらべ、今やまったくかつての面影を残していない大阪船場で、かつての商家を仕切る主人の妻あるいは女主人、家付き娘で、擬似家族集団のまとめ役だった人のことである。 本書は、今から約90年前の昭和2年(1927年)当時の“ごりょんさん”だった女...
“ごりょんさん(ご寮さん)”とは、京都にくらべ、今やまったくかつての面影を残していない大阪船場で、かつての商家を仕切る主人の妻あるいは女主人、家付き娘で、擬似家族集団のまとめ役だった人のことである。 本書は、今から約90年前の昭和2年(1927年)当時の“ごりょんさん”だった女性が書いた日記をもとに、“ごりょんさんとは何者か?”の実態に迫る内容である。時代は、職住一体型から主人家族の郊外居住への過渡期だった。 日記の主は、杉村久子という女性で、NHKの朝ドラ「あさが来た」で知られるようになった五代友厚の四女である。嫁ぎ先の杉村家は、友厚の事業協力者という関係であった。日記は久子が44歳の時の作成である。 通いのサラリーマンが増えていた時代とはいえ、丁稚奉公スタイルの店員も共存していた時代に、“ごりょんさん”は、商売面だけでなく、結婚準備など生活面でのケア・フォローの役割を担っている様子が伝えられている。 また店員と同じく日常的に接する女中との関係も日記には詳しい。女中のなり手不足の深刻さ、今も昔も変わらない人間関係の不調から辞めていく女中についての悩みのほか、元女中との切れずに続く交流録が残っている。 備忘録の意味も兼ねる日記から、うかがい知ることができるが、登場人物の多さと贈答のやり取りが頻繁なことだ。そこには、当時の物品のやり取りを通じての人間関係の構築・交流や再確認という側面も垣間見えてくる。 著者は、社会保険労務士・中小企業診断士としてビジネス現場で経験を経て後に大学院入りし、本書のテーマ “ごりょんさん”の当時の商家を研究した人物で、本書は博士論文を一般向けに書き直されて出版された本である。 本書の価値は、当時の小さな文字で書きつけた日記を、単に現代語訳しただけでなく解説付きの点が大きい。また“ごりょんさん”本人が書いた日記という一級資料に触れられることで、リアルな“ごりょんざん”像が見えてくる。
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最近では「ホスピタビリティ」という言葉が使われる。しかしこれは日本でいう「おもてなし」と呼ばれるものの無類に入るものである。その「おもてなし」の源泉と呼ばれるものは旅館・料亭などの女将が取り上げる本に多い。 本書の話に戻すが、本書は接客というよりも、むしろ「社員教育」というところ...
最近では「ホスピタビリティ」という言葉が使われる。しかしこれは日本でいう「おもてなし」と呼ばれるものの無類に入るものである。その「おもてなし」の源泉と呼ばれるものは旅館・料亭などの女将が取り上げる本に多い。 本書の話に戻すが、本書は接客というよりも、むしろ「社員教育」というところにウェイトを置いている。ちなみに「ごりょんさん」は上方落語で多く取り上げられている(たとえば「猿後家」)が、大阪の商人の妻のことを言っている。その「ごりょんさん」が店員と女中との教育や接し方など、大阪・船場の「杉村家」のごりょんさんの日記を元に紹介している。
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※このレビューにはネタバレを含みます
昭和初期の大阪商家の主人の奥さん(「ごりょんさん」)の日記から、当時の商家の「ごりょんさん」の実態を垣間見る、といった内容です。 特に店員や女中との関係にウェイトが置かれていて、主人の奥さんの生活実態や仕事、女中や店員とのやりとり、周りの家とのつきあい等に比重が置かれています。 商家の裏側・家政は普段あまり考えたことがなかったので、商家の経営以外の部分のイメージを膨らませる参考になりました。 それと、女中同士の人間関係を気遣ったり、病気の看病や結婚の世話をしたり、女中としての技術を覚えさせたり、と、店員や女中への教育や細やかな気配りが見られるのが印象的でした。 「ごりょんさん」というのは単なる雇用主や上司ではなく、「ごりょんさん」という存在なんですねぇ。
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