書道用紙とにじみ の商品レビュー
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
為近磨巨登『書道用紙とにじみ』、年末に本屋さんでなんとなく買って積んでた本。 ああ、はやく読めばよかった。 薄い墨を料紙に落とすと、墨のにじみのさらに外側に、水だけのにじみができる。 濃墨ではこんなことは起こらない。 それを不思議に思ったところから筆者は研究をはじめる。 墨はコロイド溶液で、墨粒子と水が分離することはふつうありえない。 で、その理由を調べるために、ペーパークロマトグラフィーの実験をしたり、 大阪府立産業技術研究所に依頼して電子顕微鏡写真を撮ったり、 模式図を書いたりしながら、ひとりこつこつと研究をすすめる。 ちなみに筆者はこの本を出版した時点で、定年退職して31年目、88歳である。 なんというアマチュアリズム! 図書館で毛細管現象の本を読み、数式の意味を考えながら、 最終的に「紙のにじみについては、化学を専門とする人でも十分な理解がないことがわかった」と 誇らしげに書くところまでいっちゃう。 このおじいちゃんマジでクール。すばらしい。 たしかにこういうことは、書道家や水墨画家でもないかぎりとくに知っておくようなことではないかもしれない (さらにいえば、こんな原理、知ってなくても書はできるし絵も描ける)。 でもな、知ることの歓びが透かしみえるんだよな、この本。 分野問わず、書道に興味なくてもいいから、学生さんが一読すべきかもしれん。
Posted by
- 1