叔母のくちびる の商品レビュー
叔母ヒロインの最高峰に位置づけたい官能ロマン
義母をヒロインとする最高峰の1つに『継母〈ままはは〉』(著:黒沢美貴、幻冬舎アウトロー文庫)を挙げるが、叔母をヒロインとした最高峰の1つには本作を挙げたい。幼少期から憧憬の念を抱いていた20歳年上の叔母【美詠子】との長い関わりを背景に、主人公17歳の頃をメインに据えつつ、その4年...
義母をヒロインとする最高峰の1つに『継母〈ままはは〉』(著:黒沢美貴、幻冬舎アウトロー文庫)を挙げるが、叔母をヒロインとした最高峰の1つには本作を挙げたい。幼少期から憧憬の念を抱いていた20歳年上の叔母【美詠子】との長い関わりを背景に、主人公17歳の頃をメインに据えつつ、その4年後、5年後、そこからさらに10年後といった計15年間もの物語が描かれている。青年だった主人公が32歳を迎える官能小説など稀有と言えよう。 母の妹ではなく叔父(母の長弟)の妻が美詠子なので主人公との血縁はない。身内との禁忌はスパイスに留めつつ年の差カップルとしての2人を描きたかったものと推測する。また、主人公&ヒロインの2人だけの物語にしておらず、(中盤で叔父が亡くなることから)親戚を相応に登場させることで跡継ぎを含めた家族の物語という側面も持たせている。また、母の次弟の娘で主人公より3歳年上のサブヒロイン【麻美】から美詠子は伯母と呼ばれるが、作中で同一人物を(叔母と伯母という)異なる呼称にするのは紛らわしくもありつつ、それだけの複雑を持たせた物語になっているとも言えるであろう。 美詠子との関係には起承転結があり、そのまま物語の起伏にもなっている。会えない期間があることで麻美との関係が優位的な時期もあるのだが、それでもなお美詠子への想いを失わない主人公が描かれている。叔母の矜持から相応しい相手を見つけるよう諭す美詠子だが、主人公の強い想いに根負けしたり、あるいはいたたまれない境地から脱するかのように主人公を求めたりしている。叔母と女との間で揺れているのである。子供を産めない美詠子に対する夫や親戚との微妙な距離感といったものが背景にあり、次第に居場所を失っていく美詠子の心の拠り所が主人公だからである。こうした悲哀を滲ませつつ全体としても丁寧に執筆されており、互いを想い合う2人の心が交錯する官能が彩りを添えている。 美詠子が発した『二番目でいい』との台詞。その意味は最後の最後に示されている。こうした「その後」を描くのは珍しいことながら、これによって長く長く紡いできた2人の固い固い絆がよく分かる幕引きになっている。官能小説だからこその歪んだ関係が、もしかしたら現実的にありそうかも?と思わせる、あるいはそう思いたい、男の秘めたる願望が忍ばされたような読後感を導いている。別の見方をすれば、結婚できない間柄だから官能小説なのだが、これを単に夫婦と例えれば、苦難を乗り越えた2人の素敵な関係に他ならないと言えるのである。
DSK
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