ヴァインランド の商品レビュー
トマス・ピンチョンの4作目の長編作品。 ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』が、前作『インヒアレント・ヴァイス』(原作は『L.A.ヴァイス』)に続いてピンチョン原作ということで、長らく積んでいたのだがようやく手をつけることに。 映画はあく...
トマス・ピンチョンの4作目の長編作品。 ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『ワン・バトル・アフター・アナザー』が、前作『インヒアレント・ヴァイス』(原作は『L.A.ヴァイス』)に続いてピンチョン原作ということで、長らく積んでいたのだがようやく手をつけることに。 映画はあくまでInspired byということで、前作の『インヒアレント・ヴァイス』ほどしっかりと原作というわけではない。 だがここはピンチョン原作だな、というとこもしっかり残ってる。なので映画を観た人は読んでみるといいかも。その違いも楽しめるはず。 ピンチョンは”難解”というイメージが独り歩きしており、自分もその例に漏れず『ヴァインランド』は難解なんだろう、と思っていた。 恐らく本作が難解と言われるのは入れ子構造のように回想される構成にあるのだと思った。 例えば、AとBという人物が話しているシーンでAの過去回想が語られる。するとその過去回想の中でCとDという人物の語りが入って、今度はそのCの過去回想が入ってくる。更にそこにEと……みたいな構造で語られていくので、油断していると何で急に年代が変わった、とか人物変わったんだ? となりかねない。 そのあたりが難解とか言われる理由なんじゃないか、と。 実際に読んでみると確かにわかりにくかったり混乱する部分も出てきたりもするのだが、物語自体は難解さはほとんどない。むしろポップで大分読みやすかった。 ゴジラやニンジャ、くノ一が登場したり、と大分カオスな状況の連続。 さすがに『ヴァインランド』をそのまま映画化すると、尺は足りないし大分カオティックで意味わからないことになりかねない。しかも小説だから許されるような描写や展開もチラホラあるので、これを映画でやるとなったら結構面倒臭そうだな、と。 そう考えると『ワン・バトル・アフター・アナザー』は上手いこと抽出して映画化してるな、と思う。ピンチョンらしい部分もかなりあるので。 これから読もうと思ってる人は登場人物が大分多いので、その都度メモやリストは作ったほうがいいかも。さすがに帯の登場人物表だけじゃ、混乱しそうな気がする。
Posted by
いわゆる米ポップカルチャーの“教養”が求められる作品で、幸いなことに自分は中学以降そういったものに半ば自発的に触れてきたので、固有名詞の半分くらいはピンとくるものだった。 訳が上手いわ。お見事。
Posted by
熟読しても面白いけど、略読でも楽しめる。 しっかり理解しようと思うと難解、 乱読するなら、飲みながら軽く楽しめる、 非常にコミカルな作品。
Posted by
ものすごく面白かった。 場面や視点の変化が目まぐるしくて私の読解力では理解が及ばないところが多々あるのでまた読みたい。 アメリカのサブカルチャーに詳しければもっと楽しめただろうにと思う。 先が気になるのに、情報量が多すぎて疲れてしまい毎日少しずつしか読み進められない本だった。 個...
ものすごく面白かった。 場面や視点の変化が目まぐるしくて私の読解力では理解が及ばないところが多々あるのでまた読みたい。 アメリカのサブカルチャーに詳しければもっと楽しめただろうにと思う。 先が気になるのに、情報量が多すぎて疲れてしまい毎日少しずつしか読み進められない本だった。 個性的すぎる設定や登場人物たちのやりとりが軽妙で読んでいて楽しかった。 くノ一のエピソードが好き。かっこよすぎる。
Posted by
あ、あ、あほうであるー!読書でこれだけ爆笑したのは何年ぶりだろ。TV番組や映画、音楽など無数の固有記号を散りばめつつハイテンションで突っ走っていく超ポップな物語。とにかく、シャブ中のドスケベジャップ、フミモタ・タケシと怪しい忍術を操るくノ一・DLチェイスティンのコンビが反則級なま...
あ、あ、あほうであるー!読書でこれだけ爆笑したのは何年ぶりだろ。TV番組や映画、音楽など無数の固有記号を散りばめつつハイテンションで突っ走っていく超ポップな物語。とにかく、シャブ中のドスケベジャップ、フミモタ・タケシと怪しい忍術を操るくノ一・DLチェイスティンのコンビが反則級なまでに笑わせてくる。言うもはばかる忍法奥義「チンピラ・ゴジラ」って何なんですか先生。こうした笑いに縦軸としてのアメリカの歴史を組み込んでいく辺りはさすがのピンチョンと言いたい所だけど、まずは単純に快哉を叫びながら楽しむべし。最高だ!
Posted by
トマス・ピンチョン著、550Pくらいある長編小説。60~80年代アメリカを舞台に、突き抜けたポップさ持つ人物達やサブカルチャーがこれでもかというほど詰め込まれている。数十年の規模で視点は揺れ動き、記憶のフラッシュバッグが現実に差し込まれ、時系列はかなり入り組んでいる。 どう評...
トマス・ピンチョン著、550Pくらいある長編小説。60~80年代アメリカを舞台に、突き抜けたポップさ持つ人物達やサブカルチャーがこれでもかというほど詰め込まれている。数十年の規模で視点は揺れ動き、記憶のフラッシュバッグが現実に差し込まれ、時系列はかなり入り組んでいる。 どう評価したらいいのか迷ってしまう小説だった。おそらくこれはアメリカのオタク(日本的に言えば)による小説なのだろう。はっきり言って私はこういうポップな小説が好きではないのだが、これだけの濃さと重量で書かれると、あまりに突き抜けていてかえって嫌気も差してこない。ゴジラや忍者が出てきたり(日本ネタが結構多い)、大学で革命が起きたり、そこら中でロックンロールと麻薬が蔓延していたり、実名のまま映画やテレビ番組やロックの曲が乱発したり(まさに乱発としか言いようのないネタの量)、この時代の特徴を事細かに際立たせ、ギャグなんだか真面目なんだかよく分からない世界が展開している。全てのネタを理解することは日本人の私には到底不可能だった(訳者による分厚い解説があったおかげで、かろうじて六割ぐらいは理解できた)。それでもこの著者の持つ狂気のような下調べの情熱は伝わってくるし、異なる時系列をシームレスに並べる能力は独特だ。
Posted by
場面転換が明示的ではないことが多いから,うっかりしているといつの間にか場面が変わっていて,そのせいか読んでてくらくらする.あと,関係ないけどニンジャめいた要素が出てきて頭の中で微妙に忍殺語に変換されてしまう.
Posted by
ピンチョンの描く「アメリカ」。それは、着色料たっぷりのケーキ。ネオンライトのカウボーイレディ。キャプテン・ビーフハートやフランク・ザッパ。 そんな、やりすぎちゃっているのに、どこかポップなカルチャー。これが、私は好きだ。 個人的には、ゾイドはデヴィッド・アレンみたいな風貌かもし...
ピンチョンの描く「アメリカ」。それは、着色料たっぷりのケーキ。ネオンライトのカウボーイレディ。キャプテン・ビーフハートやフランク・ザッパ。 そんな、やりすぎちゃっているのに、どこかポップなカルチャー。これが、私は好きだ。 個人的には、ゾイドはデヴィッド・アレンみたいな風貌かもしれないと思い、ちょっと面白かった。
Posted by
単純に読んで楽しいというよりは文学っぽいテイストなのだろうけど、最後まで次の展開がまったく想像できないように巧みなストーリーテリングとヒッピー的な要素を大量に投下したキャラクターの型破りな会話の楽しさが重なって最高に楽しい本でした。 自分はアメリカのサブカルは詳しくないけれど、こ...
単純に読んで楽しいというよりは文学っぽいテイストなのだろうけど、最後まで次の展開がまったく想像できないように巧みなストーリーテリングとヒッピー的な要素を大量に投下したキャラクターの型破りな会話の楽しさが重なって最高に楽しい本でした。 自分はアメリカのサブカルは詳しくないけれど、この本を読むとやはりすごい蓄積があるんだなーと今更ながら意識しましたよ。
Posted by
同じ訳者による改訳で河出書房新社の『世界文学全集』に収録された作品に大幅改訂を施した、どうやらこれが決定版となる模様だ。最初の新潮社版で読んだのがはじめてのピンチョン体験だった。当時、傑作だと思った記憶があるが、再読してみてその思いを強くした。訳文は大幅に改訂され面目を一新。全体...
同じ訳者による改訳で河出書房新社の『世界文学全集』に収録された作品に大幅改訂を施した、どうやらこれが決定版となる模様だ。最初の新潮社版で読んだのがはじめてのピンチョン体験だった。当時、傑作だと思った記憶があるが、再読してみてその思いを強くした。訳文は大幅に改訂され面目を一新。全体に漂うグルーヴ感は色あせるどころか、ますますその疾走感を増し、一度その流れに引き込まれると途中で抜け出せなくなる。 他のピンチョン作品が続々と訳出されることで、それまでこの一作を読むだけでしか知ることのできなかったピンチョン・ワールドともいうべきものが少しずつその姿を明らかにしてきた。『逆光』に登場するウェブ・トラヴァースの子孫が『ヴァインランド』のエンディングを飾る大家族集会に顔を見せるなど、それぞれが小説として独立していながらも奥底に深い根のようなものでつながりあっているピンチョンの作品群には、権力対民衆の構図がいつも透けて見える。 そう書くといかにもベタな社会派小説のようだが、そこがピンチョンの手にかかると、とんでもなく痛快なエンタテインメントに見えるから不思議だ『ヴァインランド』は、その嚆矢とも呼べるものだ。60年代を忘れられないフラワー・チルドレンの成れの果てが男を作って逃げた女房を忘れられず、一人娘と暮らすヴァインランドに昔なじみの捜査官が現れる。どうやら、元女房の男が手勢を率いて押し寄せてくるらしい。おんぼろ車に乗り込んで娘と逃げ出すゾイドだったが…。 60年代のアメリカは輝いていた。キューバ危機やヴェトナム戦争が学生や労働者の集会やデモを呼び、世界は変わるのかもしれないという幻想を振りまいていた。ラブ&ピースを合言葉にヒッピー・ムーヴメントが世界を席巻し、ロックに代表される音楽が世界中の若者を結びつけウッドストック・ネイションという言葉さえ生まれた。しかし作品の時代は1984年。村上春樹ではないジョージ・オーウェルの書いた『1984』年だ。 ピンチョンの固定観念、それは新大陸アメリカが持っていた清新な魅力が、資本主義国家として成長するうちにとんでもない腐りきった国に成り果ててしまったことに対する徹底的なノン(否)を突きつけることではないか。ニクソン、レーガン、ジョージ・ブッシュ・シニアと引き継がれる国家的陰謀。オーウェルが想像した管理社会をより巧妙に成し遂げたその高度管理社会である1984年のアメリカを舞台にしながら、ピンチョンは凄腕のナラティヴ・テクニックを駆使して熱き60年代を紙上に甦らせる。 重厚長大が敬遠されて軽薄短小がよしとされたのは一昔前だが、ピンチョンのそれは軽薄短小などではない軽厚長大。扱う内容は厚く長く大きいのだが、語り口はとてつもなく軽い。ルーシー・ショー、ローン・レンジャーからハワイ・ファイブ・オーと、アメリカのTVドラマのノリでどこまでも突っ走る。加えてBGMどころではなくガンガンひびいてくるロック&ロール、ヘヴィ・メタ、アシッド・ロック。ドラッグまみれの音楽。 お上品な世界にそっぽを向きどこまでも悪趣味で過激、顰蹙を買うようなカウンター・カルチャー趣味を押し出しながら、どうしてこんなにピュアでセンチメンタルな話が書けるのだろう。ピンチョンを読んでいると、ここにこんないいものがあった、という気にさせられる。あまりにも無防備な姿勢で社会の不正に挑戦状を叩き付ける若いフレネシとその仲間。自分の持つ純粋さの過剰を持て余すかのようなフレネシの裏切り。同時代に学生運動を経験したものなら、この切なさに覚えがあろう。 どこまでもダメオヤジぶりを振りまくゾイドにしても、かつて信じたものをそう簡単にあきらめきれない気持ちはこちらも同じで、ダメだと思いながらも肩入れしてしまう。権力を持たないものたちが、暗躍する権力の暴力にそれでもあっけらかんとしてへっちゃらという生き方を示すピンチョン世界の住人たちにスタンディング・オベーションを贈りたい。
Posted by
- 1
