米川千嘉子歌集 の商品レビュー
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第1歌集「夏空の櫂」を読み了える。 この歌集で詠われ、後に夫となった男性は、「かりん」の科学者・歌人、坂井修一である。綜合歌誌「歌壇」の自由な歌論を、好感をもって読んでいる。 愛の歌は鬱屈している。例えば「暗鬱にしか愛し得ざりし」と詠む。世の常識に従わず、自我を通しつつ、愛の成就を願って、苦しむようだ。新婚の二人きりの現実も描かれる。 勤めの教師としても、一途な思いを詠む。 第2歌集「一夏」を読む。 「一夏」は、「ひとなつ」ではなく、IMEにはないけれど、「いちげ」と読む(三省堂「現代短歌大事典」2004年・刊に拠る)。 何といっても、妊娠、出産、子育ての歌が主である。 「わが子可愛い」だけの歌ではないけれど、やはり喜びの歌に目が行く。 父よりの血脈、青年期を脱する夫、夫のボストン留学への同伴、掉尾には転んでも立ち上がる子への励ましが、詠まれる。 末尾の「歌論・エッセイ」と「解説」を読み了える。 エッセイの「山雀の歌」は、著者が科学者・歌人の坂井修一との結婚にごたごたがあった時、坂井修一が暗唱した伊藤一彦の歌の幾つかに、心が救われた経験を語る。オチの笑い話もつけて。 馬場あき子・論「時代感と孤独のまなざし」になると、抽象的で難解となる。例えば「精神と肉体、情況と情念など、相反するもののきしみや葛藤、そしてそれらがもたらす悔しさや怒りやふとした錯誤の悲しみが、そこに生々しく浮上するからなのだ。」。B・ラッセルの言う言葉の階梯を越えて、比喩として取り入れながら、曰く言い難いものを表そうと苦闘している。 短歌では、正直で豊かな感性を表しながら、評論となると固くなる。言葉の空転を恐れる程である。 男性論客に伍して行く事はなく、豊かに表現すれば良いのに、と思う。 これは日高堯子「鏡像の視野」、川野里子「朱夏混沌」、花山多佳子「思索と痛み」の3解説でも、ほぼ同様に思え、女歌の時代なのに、あるいはそれ故に、女性歌人が短歌を論じる困難さを思わせる。
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雷雲の裂けると見えてはろばろと山脈は紫おびて濡れゆく 感情を待つきさらぎの昼ながく水仙のしづけかりし放電
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