グノーシスの神話 の商品レビュー
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キリスト教とほぼ同時代に地中海世界に出現・隆盛した神秘思想、グノーシス主義の神話を紹介する書。至高神と人間の霊性の一致、「悪」なる物質世界の発生とそこからの救済を説くグノーシス主義の諸々の神話を、各トポス(主題)毎に解説する。 本書は、1999年に岩波書店より刊行された同名本の復刊版である(後に講談社学術文庫にて再度復刊)。人間の霊性と至高神が元来同一であり(「人間即神也」)、悪しき物質世界を超克してその本質を回復せんとするグノーシス主義においては、多くの神話が語られていた。超越的な至高神の領域とそこで生じた分裂、劣悪なる造物神とその被造物たる物質世界の出現、そして人間の創造――。先行する旧約聖書の神話やストア派の学説に対するアンチテーゼを織り交ぜつつ、独自の象徴とイメージを用いるそれらの物語は、グノーシス主義の世界観と救済論を表明するものであった。本書では、ナグ・ハマディ文書やキリスト教の論駁文書などに見えるそうした種々様々な神話を各テーマごとに引用・集成、解説を行っている。 それぞれの神話は原典資料から直接引用してきており、解説も平易で分かりやすい。特に重要なのは、グノーシス主義の影響下で成立したマンダ教、マニ教の神話についても紹介している点である。グノーシス主義の意義と課題、及び現代思想の比較を行う最終章の論説については(本書刊行の時代性もあって)あまり納得がいかなかったが、グノーシス主義の神話、およびその中で語られる思想を概観するのにうってつけの本と言えるだろう。
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グノーシス主義を現象としてとらえた記述があり、宗教面だけでなく社会学的な分析も興味深く読みました。都市の知識層をとらえて離さなかったグノーシスの神話を取り上げるとともに、マニ教やマンダ教と比較しながら考察されています。最初に読んだのはこれよりも古い版ですが、この版では前年に出版さ...
グノーシス主義を現象としてとらえた記述があり、宗教面だけでなく社会学的な分析も興味深く読みました。都市の知識層をとらえて離さなかったグノーシスの神話を取り上げるとともに、マニ教やマンダ教と比較しながら考察されています。最初に読んだのはこれよりも古い版ですが、この版では前年に出版された「グノーシスの変容」についても言及があります。この本を読んで、グノーシスとは過去のものではなく、現代にも脈々と受け継がれている思想なのだと感じました。
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