戦時司法の諸相 翼賛選挙無効判決と司法権の独立 の商品レビュー
研究書だけど読みやすい。新書『気骨の判決』で紹介された,選挙無効判決とその背景をより詳しく分析。「法律新報」という雑誌の内容の変遷も扱っていて対照的。 この判決は,空前絶後の国政選挙無効判決だが、歴史家が言及してただけで,法学者による本格的研究はなかったという。本書には判決原...
研究書だけど読みやすい。新書『気骨の判決』で紹介された,選挙無効判決とその背景をより詳しく分析。「法律新報」という雑誌の内容の変遷も扱っていて対照的。 この判決は,空前絶後の国政選挙無効判決だが、歴史家が言及してただけで,法学者による本格的研究はなかったという。本書には判決原本から全文が収録されてる。 判決文はもちろん,引用文も正字正仮名で,学術ちっく。 翼賛選挙については,戦時中の国会で,4人の議員が批判的に取り上げている。調査した選挙妨害の内容や政府の姿勢を議事録に残して,同時代の国民に知らせ,後世に遺した意味は大。 無効訴訟が何件か提起されたが,無効判決になったのは,鹿児島二区だけ。昭和20年3月1日言渡で,3月20日には再選挙となった。ちなみに3月10日の東京大空襲で判決原本は焼けたと思われていたが,後に救われて残っていることが判明した。 鹿児島二区の選挙妨害は県知事以下かなり積極的に関わって酷かったらしく,非推薦候補は皆落ちた。再選挙が行なわれたが,結局当選者の顔ぶれは変わらなかった。ただ,一人は翼賛会から離脱していたし,何より空襲もある戦争末期に,無効判決が求める再選挙がしっかり実施されたことに注目。 雑誌「法律新報」は,大正創刊。当初はリベラル色の濃い法律雑誌だったが,戦争が近づくにつれて,戦争賛美,国家への貢献を強く主張するようになっていく。さらには日本精神に価値を置く法曹組織(日本法理研究会)の機関紙になってしまう。普通の雑誌だけでなく,法律誌まで「撃ちてしやまむ」とは… こんな時代の雰囲気の中で,無効判決を出した吉田裁判長たちは,すごいな…。ちなみに,戦後「法律新報」は復刊するが,題字にローマ字をでかでかと掲げ,戦争協力の記事を書いていたことの弁明もなし,というお決まりのパターン。新聞も,雑誌も,世の中がみんなそうだったんだよな…。 以下,メモ。 吉川英治の「翼賛選挙の誓」,あからさまな働きかけはないが,翼賛候補に投票したくなるという名文?らしい。p.13 「売家と唐様で書く三代目」 この川柳は,衆議院議員の尾崎行雄が,自由候補の応援演説で引用して,不敬罪騒動になったことで有名なのか。昭和19年6月27日,大審院で逆転無罪判決。
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