素粒子物理学 の商品レビュー
著者がまえがきで述べていることを鵜呑みにして、付録からは読まない方がよい。 付録は、かなり端折った、場の量子論で、かえって理解が浅くなり、この本を読むのが嫌になったからだ。 最初から読む分には以下の通り、新たな気付きも多く、お勧めできるテキストである。 あとがきは、読者、特に...
著者がまえがきで述べていることを鵜呑みにして、付録からは読まない方がよい。 付録は、かなり端折った、場の量子論で、かえって理解が浅くなり、この本を読むのが嫌になったからだ。 最初から読む分には以下の通り、新たな気付きも多く、お勧めできるテキストである。 あとがきは、読者、特に若い読者に対して、著者が物理学者としての立場を越えて、人間としての遺言を遺すような深い余韻を湛えた文書。「未知の領域で研究を進めるにあたって心すべきことは、自分は『何が一番重要で基本的なこと』と確信できるかを、徹底的に突き詰めることである」 第1章・序章は、相対論的量子力学の漏れのないおさらい。 第2章・基本構成子と力。クォークの色の説明が秀逸。 第3章・高エネルギーの散乱。弱い相互作用と電弱相互作用の効果が同程度であることを示した点や、不安定粒子の反応振幅のあたりは記述が冴えている。 第4章・ハドロンの反応。核力のくだりが良い。π中間子の結合定数は、グルーオンの結合定数より、15から150倍も大きいとは! 第5章・クォークやグルーオンを見る。ジェット現象の意味が始めて分かる。重心系エネルギーをあげると、なぜ微細構造定数が減少するのか?クォークに色が存在することを示唆する実験結果も面白い。 第6章・ゲージ原理。次の章の概念的、数学的準備。 第7章・量子色力学。クォークとグルーオンの運動方程式が導出できたのが,感動。 第8章・空間反転と荷電共役。最後のコラム(強い相互作用には空間反転対称性を大きく破る、場の量子論特有の効果があるのに、実験事実は空間反転対称性が守られている)が意味深である。 第9章・クォーク・フレーバーとアイソスピン。B10の同一フレーバー3個で構成されたバリオンからクォークに3つの色の自由度があるという認識がもたらされたことは、鳥肌もの。 第10章・素粒子の弱い相互作用。この章は次の最終章とセットで学んで始めて理解できる。 第11章・終章。ヒッグス機構の説明が鮮やか。 ほぼ全編、運動方程式だけで、素粒子物理学が見事に解説されたことに心から感謝したい。
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