帰還の謎 の商品レビュー
若くしてハイチからカナダに亡命した作家の自伝的小説。 父の死と、遠いふるさとを辿る道のり。 手記か小説か、自由詩と散文。過去と未来。暑い国と寒い国。歴史的な事実と個人的な回想。 固有名詞があって、固有の出来事があって、それでも書かれていること自体はどこにでも通用する普遍。 いろ...
若くしてハイチからカナダに亡命した作家の自伝的小説。 父の死と、遠いふるさとを辿る道のり。 手記か小説か、自由詩と散文。過去と未来。暑い国と寒い国。歴史的な事実と個人的な回想。 固有名詞があって、固有の出来事があって、それでも書かれていること自体はどこにでも通用する普遍。 いろんなものが交じり合って、いつどこで誰が何を がわかりにくい。 だけどそれが気にならない。 これは言葉の世界を漂うための本。 「ハイチ震災日記」http://booklog.jp/users/melancholidea/archives/1/4894348225の時も思ったけど、本当に詩がなじんでいる人だ。 詩の形でも文章の形でも、これはうたなのだと感じる。 そして、あちらで「ディアスポラという嫌な形容」でくくられることを拒んでいた人をこの名で分類するのはひどいことだけど、「ディアスポラ」の漂流がある。
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【詩と散文が混じり合うフシギな構成。対訳が非常に素晴らしい】 「オスカー・ワオ」がドミニカの独裁政権に「囚われた」人々の話だったのに対して、今作は、ハイチの独裁政権に囚われた人々の話。その中で、父を、そして自分を探していく作家の話。 共通するのは「なぜそこから逃れられないのか...
【詩と散文が混じり合うフシギな構成。対訳が非常に素晴らしい】 「オスカー・ワオ」がドミニカの独裁政権に「囚われた」人々の話だったのに対して、今作は、ハイチの独裁政権に囚われた人々の話。その中で、父を、そして自分を探していく作家の話。 共通するのは「なぜそこから逃れられないのか」ということ。いや、そもそも「逃れようともしていない」人もいるということ。でも、当事者とはそういうものなのかもしれない。そして、それはここ日本でもそんなに大差はないことなのかもしれない。作中、「或る独裁者が力の失い、別の誰かが権力を握ろうとも、裏に潜む何かは変わらない」といった言葉がでてくる。我々はまずその事実を認識するところから始めないといけないのだろう。
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