ポール・デルヴォーの絵の中の物語 の商品レビュー
久しぶりに『好きだけど意味が分からない』ものを読んでしまった。後書きを読んでようやく読んでいたものが世界七不思議の旅行記らしいことを知るが、後半は読解を諦めて詩を読んでいる気分でイメージに遊んでいた。
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それぞれの冒頭にデルヴォーの絵が付されているので、一見したところは画讃に見えるかもしれないが、掌編を連ねた中編小説である。全体は一連の夢。入って行くのは18枚のデルヴォーの絵の中の世界。そして、案内図はヴェルヌの『地底旅行』だ。デルヴォ-の絵は、氷河や氷が描かれているわけではない...
それぞれの冒頭にデルヴォーの絵が付されているので、一見したところは画讃に見えるかもしれないが、掌編を連ねた中編小説である。全体は一連の夢。入って行くのは18枚のデルヴォーの絵の中の世界。そして、案内図はヴェルヌの『地底旅行』だ。デルヴォ-の絵は、氷河や氷が描かれているわけではないが、そのいずれもから温度感が全く伝わってはこない。そして、時間が突然にそこで静止してしまって、もはや動き出すことはないかのようだ。ヌーヴォー・ロマンの作家、ビュトールは、ここでまさに「視る」ことに徹して、幻視世界を旅してゆく。
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※このレビューにはネタバレを含みます
ヌーヴォー・ロマンの旗手、ミシェル・ビュトールがポール・デルヴォーの18枚の絵画をモチーフに物語を編んでいる。 ミシェル・ビュトールは、ヌーヴォー・ロマンの作家たちのなかでも高い芸術性と教養を備えた人物であった。 『心変わり』は、進む列車に乗り込んだ主人公の心の変異が時間軸を巧妙に操りながら構成されている小説である。 ミシェル・ビュトールは、『時間割』や『心変わり』などの小説にとどまらず、評論やエッセイ、詩、旅行記ほか、多ジャンルの作品を発表してきた。 画家とコラボレイトしている作品も複数あり、本書にまとめられたものもその一部である。 ポール・デルヴォーは、言わずと知れたベルギーのシュルレアリスムの画家。多くの個性的な作品を遺した。 デルヴォーの絵画は、幻想的で無機質である。一度見たら忘れられない作品ばかりだ。 無表情の髪の長い美しい女性たちが、多く登場する。立位であったり、座位であったり、臥位であったりするが、彼女たちは例外なく動きがない。 背景は、屋内外を問わず、昼夜も問わない。ギリシア神殿様の建造物がみられたり、山や木や階段や、列車や、シャンデリアなど、デルヴォーの絵にはデルヴォーの背景とデルヴォーの女で構成されている。 デルヴォーの作品は、非常に幻想的であるため、物語を紡ぎやすいオブジェクトだ。 ジュール・ヴェルヌの『地底旅行』の鉱物学教授であるオットー・リーデンブロックは、デルヴォーの絵画によく登場する。ヴェルヌ(またはリーデンブロック教授)とデルヴォーとビュトールは、息もぴったりであった。 残念なのが、デルヴォーの絵がモノクロで、ビュトールのテキストも数ページに渡り、一体化の愉悦が減ってしまっている。カラーで、堪能できれば幸せだったナァ(笑)。
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