制度改革の政治経済学 の商品レビュー
本書は、官民関係の変容について、グローバル化の影響を受けた代表的な分野であると同時に強固に制度化された官民の協調関係を特徴としてきた金融セクターと情報通信セクターの比較分析を行うものである。具体的には、2つのセクターの対照的な変容過程について、国際レベルの要因に着目する国際政治経...
本書は、官民関係の変容について、グローバル化の影響を受けた代表的な分野であると同時に強固に制度化された官民の協調関係を特徴としてきた金融セクターと情報通信セクターの比較分析を行うものである。具体的には、2つのセクターの対照的な変容過程について、国際レベルの要因に着目する国際政治経済学と国内レベルの要因に着目する比較政治経済学という2つのアプローチを統合的に用いる理論枠組みを構築することで説明する。 本書のリサーチ・クエッションは、以下のようなものである。 情報通信セクターと金融セクターにおける官民関係は、その成立以来、類似した特徴を有し、1980年代のグローバル化の初期段階に対してもよく似た適応を遂げた。それにもかかわらず、グローバル化が深化するなか、これら2つのセクターはまったく異なる方向へ分化するにいたった。加えてその過程は、金融危機やスキャンダルなどで完全に失敗したはずの金融セクターで所轄官庁が力強く復活した反面、NTT分割問題などの懸案を処理してきたかにみえる情報通信セクターにおいて所轄官庁が弱体化するという逆説を伴っている。以上の状況は、なぜ、どのように生じたのだろうか。 このリサーチ・クエスチョンに対し、本書は、次の因果メカニズムを明らかにする。すなわち、金融セクターでは、政党、メディアにも緊急に改革すべきことが明瞭に映るほどの「政策の失敗」が「あったにもかかわらず」ではなく「あったからこそ」、既存制度の粘着性が断ち切られた。それゆえグローバル化に適合的な制度変化が可能となった。それに対し情報通信セクターでは、「政策の失敗」がその水準にいたらなかったがゆえに、既存制度の有効性は低下しつつも、抜本的な解決策がとられなかった。以上の論理のポイントは、グローバル化と国内制度の相互作用において、「政策の失敗」がグローバル化の圧力を国内政策過程に浸透させる触媒としての役割を果たすという点にあるという。 本書における、官民関係の変容の経路が分化する際に鍵となる変数は、「政策の失敗」が官民アクターや専門家を越えて明瞭に映るかという「失敗の可視化」の有無であるという指摘は、制度改革や政策転換を考える上で、非常に興味深い。
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