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渡邊二郎著作集(第12巻) の商品レビュー

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2021/11/13

『人生の哲学』(1998年、放送大学教育振興会)と『自己を見つめる』(2002年、放送大学教育振興会)のほか、論文やエッセイなどが収録されています。 『人生の哲学』と『自己を見つめる』は、放送大学で著者がおこなった講義をもとにしています。著者は、さまざまな年代にわたる受講者たち...

『人生の哲学』(1998年、放送大学教育振興会)と『自己を見つめる』(2002年、放送大学教育振興会)のほか、論文やエッセイなどが収録されています。 『人生の哲学』と『自己を見つめる』は、放送大学で著者がおこなった講義をもとにしています。著者は、さまざまな年代にわたる受講者たちから人生哲学に対する強い関心が寄せられていたことを受けて、これらの著書のもとになる講義をおこないました。そこでは、西洋の哲学者たちの議論を参照しながらも、生と死、愛、老い、自己と他者といった問題にかんする著者自身の考えが述べられています。「解題」を執筆している森一郎は、「自己と世界の全体を全的に知ろうとする狂気すれすれの学究的良心に取り憑かれた精神が、そこに確かに息づいていることをわれわれは知り、一抹の戦慄をおぼえる」と述べています。こうした講義をおこなった著者自身についてはたしかにそのような見かたに同意できるのですが、その内容は亀井勝一郎に代表される人生論に見られる微温的な性格をもつようにも感じました。 著者の専門はハイデガー研究ですが、ハイデガーはみずからの思索がサルトルに代表される「実存主義」とは異なり、存在論であると述べていたことはよく知られています。著者は、そうしたハイデガーの、とくに後期の思索を参照して、「私たちのところへ自分を送り届けてくる運命的なものとして、私たちを圧倒的に支配するところの存在の真理というものが、考えられてゆくようになった」と解説しながらも、「人間は、真の存在の呼びかけを、運命の声として聞き取りつつ、それに聴従して本来的に実存しようとするのである」と述べて、実存の領域へ問題をとり返そうとする試みをおこなっています。 そのほか、日本赤十字社幹部看護婦研修所の卒業記念文集『いとすぎ』に寄せられた文章には、著者のロマンティシズムがかいま見られて、ほほえましい気持ちにさせられました。

Posted byブクログ