Horizon 海と空のはざま の商品レビュー
ひたすらに空と海を二分する水平線が、画面ほぼ中央にセットされた状態の写真が続く。 船医として水産庁調査船に乗り組み、ベーリング海、南太平洋を航行した著者自身がこれらの写真を撮影した。 「なんにもない」写真だ。 ただ膨大な量の水とそれを見下ろす空と雲があるばかり。 ときおり雲の切...
ひたすらに空と海を二分する水平線が、画面ほぼ中央にセットされた状態の写真が続く。 船医として水産庁調査船に乗り組み、ベーリング海、南太平洋を航行した著者自身がこれらの写真を撮影した。 「なんにもない」写真だ。 ただ膨大な量の水とそれを見下ろす空と雲があるばかり。 ときおり雲の切れ目から光のカーテンが下ろされたり、 おそろしいくらいに赤い夕焼けが、雲も海面も朱に染める… それは美しいけれど…例えば空ばかり撮った写真集みたいに、自然現象を見つめて恍惚とするようなたぐいの写真ではない。 連続して写し出される情景に、膨大な水の上に浮かんだ船の孤独な境遇をひしひしと感じる。 私の郷里は四国で、橋がかかるまでは船で本土に渡っていた。 瀬戸内海とはいえ、やはり船は揺れる。 よく気分が悪くなって、甲板に出て風に当たっていた。 甲板から見えるものは膨大な量の水が果てしもなくある。その情景だけ。 強い風と船の機関部がたてる騒音にとりまかれてそれを眺めていると、しみじみと孤独を感じた。 あと数十分もすれば地面に降りられる。快適な場所へ行くことが出来る。 けれど今この瞬間は、不自由で寂しいこの場所に押し止められて、じっと我慢している。 この不自由さ、この孤独さは他の乗り物で味わったことがない。 決してよい思い出ではないのだけれど、もはやそんな体験をする事もほとんどなくなった快適な現在の境遇の中で、ふと懐かしく捨て難い思いで反芻した。 この写真集は、私にそんな思い出の箱のふたを開いてくれたのだった。
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