日本の医療風土への挑戦-明日の「医者」を育てる の商品レビュー

宮城征四郎(著者),黒川清(著者)

2010/09/13

沖縄県立中部病院長（当時）の宮城征四郎氏と、東海大医学部長（当時）の黒川氏による、臨床研修必修化前に行われた対談と、各々の論文や講演をまとめた本。

相当急ごしらえだったのか、対談記事はまるでテープから起こしたものをそのまま文字にしたのかと思うほどまとまりがなく、論文や講演録も無理やりに詰め込まれている印象。本としての作りは正直、最低である。

ただ、読みにくいものの、内容的には面白い。必修化前からアメリカ式のスーパーローテート研修を行い、しかもすべての研修医に救急研修を課していた沖縄中部病院と、卒前のクリニカル・クラークシップを本格的に取り入れた先駆的教育を当時行っていた東海大学。まさに当時、医学教育における課題の先端を行く医育機関（研修病院にこの表現はある意味で不適切かもしれないが）の代表による話し合い、面白くないわけがない。

本書が刊行された後、医師の初期臨床研修が必修化され、黒川氏が常々主張する「混ざる」ことそのものであるマッチングも同時に始まったことで、日本の医学教育は大きく変革を遂げたが、本書中で2人ともが語るように、まだまだこれは過渡期である。

実際、日本の医療は卒後間もない医師に支えられていた部分も大きい（それはそれで大きな問題であるが）にもかかわらず、初期研修医は医師免許を持っているというだけで、診療能力がほとんどない状態なのである。

現在よりもさらに充実した医学教育、特に臨床教育が実現し、さらに医師免許を持つ人間が医療現場ですぐに戦力となるためには、やはり現在の初期研修レベルの教育がが卒前に降りてきてクリニカル・クラークシップとして機能し、卒後は現在の後期研修に当たる、専門研修にすぐ入るといった形が、理想であろう。