増補 名詩の美学 の商品レビュー
著者、西郷竹彦による「虚構論をふまえての美の構造仮説」に基づいた詩論。具体的な詩の分析には、ここまで細かく読めたら楽しいだろうなあ、と思わせるだけの精密さがある。そういう風に分析していくのか、と新しい発見が多かった。 やや皮肉っぽいが、「美とは〇〇である」という信念があれば、ここ...
著者、西郷竹彦による「虚構論をふまえての美の構造仮説」に基づいた詩論。具体的な詩の分析には、ここまで細かく読めたら楽しいだろうなあ、と思わせるだけの精密さがある。そういう風に分析していくのか、と新しい発見が多かった。 やや皮肉っぽいが、「美とは〇〇である」という信念があれば、ここまで迷いなく「美」を説明できるのか、というのも勉強になった。その断定的な言い方に、アレルギー反応を示す人もいるかもしれない。 著者は、本の冒頭で「虚構とは、現実を踏まえ、現実をこえる世界である」と定義する。そして、詩の言葉通りに喚起する「現実」のイメージと、比喩的に喚起される「非現実」の矛盾したイメージが、統合される体験・認識が「美」だと断言する。 ここの部分、他の虚構論や美学への言及がないので、西郷竹彦の考える「美」というのは、そういうものなのか、と納得するしかない。正直、ここでうさんくさいと感じたら、この先は読めないような気がする。 ただ、それによって、詩を読む際に、「現実的に起こっていることは何か?」と、「表現の仕方によって喚起される非現実的なイメージは何か?」を考えるという方針が立つ。今までよく分からなかった詩も、確かにそう説明されると、なるほど、と思わせられるから面白い。 この本を読んでいると、何かの魅力を伝えるには、自分が感じる魅力について、ある種の「信仰」のようなものを持っている必要があるのではないかと感じてくる。何かを面白い/面白くないと語るには、自分がどんな立場からそのように感じているのかを自覚する必要がある。 自分自身の感じる「美学」を自覚しているか。それを問われているような気がする本だった。
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