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共生のイスラーム の商品レビュー

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2012/07/23

本著の対象となる地域は沿ヴォルガ・ウラル地方(カスピ海北方から黒海北方にかけてのキプチャク平原周囲)です。専門外の私には内容がちょっと深すぎて把握できなかったところが多かったので、本文のまとめからこの本の概要を抜き出します。 「ここまで、沿ヴォルガ・ウラル地方の住民によるイスラ...

本著の対象となる地域は沿ヴォルガ・ウラル地方(カスピ海北方から黒海北方にかけてのキプチャク平原周囲)です。専門外の私には内容がちょっと深すぎて把握できなかったところが多かったので、本文のまとめからこの本の概要を抜き出します。 「ここまで、沿ヴォルガ・ウラル地方の住民によるイスラーム受容から、ジョチ・ウルスのイスラーム化とロシア諸公に対する支配、さらにはロシアによるこの地方の包摂とその後のムスリム臣民の動向を、駆け足でみてきた。・・・本書の冒頭に掲げた、正教徒支配のもとでのムスリムの正教化とイスラームの保持について (1)この地のムスリム支配層のかなりの部分が、ロシア師府の硬軟織りまぜた正教化政策のなかで正教徒となる一方で、支配層以外のムスリムの正教化はほとんど進まなかった、 (2)このようなムスリム臣民の反応を受けて、ロシア政府はイスラームをロシア帝国の宗教として公的に認め、いったんはムスリムとの全面的な協力関係を築いた、 (3)その結果、ムスリムはキリスト教徒の支配という条件を受け入れて、イスラームの教養を柔軟に解釈しながら、ムスリムとしてのアイデンティティを維持するとともに、ロシア帝国の臣民としての意識も涵養していった、 というおおまかな流れを理解していただけたと思う。」 とのことでした。しかし、1917年のロシア革命後、正教徒とムスリムはともに“無神論”を掲げるソヴィエト政権のもとで抑圧されながらの生活を余儀なくされます。そしてソ連解体後の現在、「多民族・多宗教国家を標榜しつつも、正教会が政治に相当の影響力を有するロシア連邦において、両者の真の共生があらためて問われている。」と結んでいます。 例えばユーゴスラヴィア紛争では同じキリスト教徒同士でも宗派が違うというだけで憎悪の対象となります。ましてやパレスチナ問題などから考えると、多宗教同士の共生というのは難しいことこの上ありません。日本な土台に生まれた私たちにはなかなか理解しづらいところがありますが、「神はいない」といっただけで信頼してもらえない地域の人々にとっては永遠の問題です。表面上うまくいっているように見えても、9・11のような事件があったらすぐに内面にたまっていたマグマが噴出します。フランスのように教育の場から徹底的に宗教的なものを排除するという姿勢も、どこからにからならず齟齬が出るようでなりません。まず「真の共生」とはどのような状態なのか、共通の理解が必要となるでしょう。 最後に、本書で「ジャディード運動」というのが紹介されていましたが、私自身この運動は最近知りました。「(ロシアの支配下に入った中央アジアのムスリムたちの教育改革を中心とする運動について)新しい方式の学校の開設から、新聞・雑誌などを利用した政治運動」(東京書籍『世界史B』より)ということらしいですが、この運動について本書はガスプリンスキーというタタール人改革者の活動から詳しく紹介されています。最近山川出版社版とは違う教科書を精読し、目から鱗が落ちる衝撃を受けたのですが(この経緯や内容については近日2回くらいに分けて私のブログ(http://blog.goo.ne.jp/gankai2664/)で書きたいと思っています)、まだまだ知識が足りない、足りないから本を読んでもなかなか理解しきれない、知らないというのは損だな、と本書を読んで思いました。最後に駄文しつれいしました。

Posted byブクログ