歌集 人類のヴァイオリン の商品レビュー
大滝和子の第二歌集。 家々に釘の芽しずみ神御衣のごとくひろがる桜花かな 急行を待つ行列のうしろでは「オランウータン食べられますか」 『短歌パラダイス』を読んだとき、この二首は特別なインパクトがあった。本書の収録作も日々の雑事と官能の世界、それから野生というか自然との交感と...
大滝和子の第二歌集。 家々に釘の芽しずみ神御衣のごとくひろがる桜花かな 急行を待つ行列のうしろでは「オランウータン食べられますか」 『短歌パラダイス』を読んだとき、この二首は特別なインパクトがあった。本書の収録作も日々の雑事と官能の世界、それから野生というか自然との交感と宇宙的な視座が全く区別なく等価に詠まれていく。ミクロからマクロへの跳躍、という大上段な感じもない。どっちも折り重なって一緒に見えている人なのだと思う。 はるかなる湖[うみ]すこしずつ誘きよせ蛇口は銀の秘密とも見ゆ 縄文期一万年はつづきしと聴きたるのちに銀行へゆく わたくしの風の眠りを食むようにセロリスティック、コーンフレーク 大きな世界と秘密裡に繋がっているような歌や恋歌のなかに、みずからの身体性を扱った歌が鋭くきらめいて読む者の内臓に透明の傷をつけていくこともある。 何をせむ腐りおえたら何をせむ 躑躅の園を丸くめぐりて みがかれし薬局の戸のつめたさよカール・マルクスに生理痛なし 何づくで君をさらえばいいのだろう V字型なす雁たちの群れ この「V」にドキッとさせられる。
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