福島第一原発事故を検証する の商品レビュー
本書の著者は原発反対派の学者である。今回の福島原発の巨大事故は、著者がそれまで繰り返し専門的会合や著書で主張してきた内容が現実のものとなったものであり、決して「想定外」のものではないことが本書を読んでよくわかった。まさにこれは「人災」である。原発事業者や原発賛成派の学者たちは、...
本書の著者は原発反対派の学者である。今回の福島原発の巨大事故は、著者がそれまで繰り返し専門的会合や著書で主張してきた内容が現実のものとなったものであり、決して「想定外」のものではないことが本書を読んでよくわかった。まさにこれは「人災」である。原発事業者や原発賛成派の学者たちは、想定すべきことを無視しただけであったとは、万死に値するとはこのことだと思った。 福島原発事故の内容については、今までマスコミ等でかなりの情報が流されているが、本書はさらに専門的な知見を詳細に紹介している。ベントと内部圧力による海水注入の困難さの関連などや、電源喪失時のオペレータの試行錯誤などは、本書を読んではじめて知った。 本書には「オペレータは、生きるか死ぬかのきびしい事故に直面し、撤退することができないなかで、机上訓練のみで実施練習のないまま、マニュアルを読みながら、複雑な原子炉熱流動条件にもかかわらず…炉心に海水を注入することを繰り返した。実施訓練のないなかでのそのような操作と試行錯誤には、震え上がるほどの恐怖感を覚えるものである」と記載されている。その未曾有の混乱のなかで、東電は「全面撤退」を主張したというのが最近になって判明している。 「福島原発事故独立検証委員会」は、2012年2月28日に400㌻強の報告書を発表したが、そのなかで「事故当時東電は作業員撤退を主張したが、菅直人首相はこれを許さなかった」という。しかも「東電はこの事故検証委員会の調査協力要請を一切拒否した」という。東電のこの姿勢には、あきれ果てるとしかいいようがないと思った。 「前へ!東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録」と言う本を、2012年1月23日に読了した時に、ちょっと違和感を感じたことを思いおこす。この本はその表題どおりに、巨大事故の恐怖を乗り越えて事故の収束に活躍した人々の英雄的な記録だが、感動的な表現に終始していた。しかし、その巨大事故の背景が本書で紹介されるように「人災」であり、東電が「撤退」を主張していたとは! やはり、この福島原発事故については、「感動的な物語」よりも、本書のような「冷静な検証」が必要なのではないか。 ただ、本書はある程度事故内容を読み込まなければ、読み続けることが困難な専門的事項もあるので、もっと簡単なパンフレットのようなものも必要と感じた。本書で一番印象に残ったのはこの巨大事故の「人災」主張である。
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一部錯誤が混じっているので、注意が必要。 たとえば、稼働率の議論で、沸騰水型だから稼働率が低いという極端なロジックがあるが、これは日本の原子力政策における高頻度のメンテナンスのため。
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