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若き特攻隊員と太平洋戦争 の商品レビュー

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2013/09/19

特攻隊として戦死されていった方々の手紙・日記など残された資料をもとに構成し、彼らの心の軌跡に迫った一冊。 特攻に志願した予備学生は、どのような考えでいたのかを示す興味深い記述が掲載されている。 当時、東京帝国大学の学生の間では、 「予備学生なんて消耗品であって、お前たちは戦...

特攻隊として戦死されていった方々の手紙・日記など残された資料をもとに構成し、彼らの心の軌跡に迫った一冊。 特攻に志願した予備学生は、どのような考えでいたのかを示す興味深い記述が掲載されている。 当時、東京帝国大学の学生の間では、 「予備学生なんて消耗品であって、お前たちは戦争で死ねば良い、内地では俺たちがうまくやる、生き残りたければ主計にでもなれ、飛行機なんかは優秀なのをやるのは惜しい、命知らずのヨタ者で間に合うのだから」 といった考えが多数を占めていたという。 それは、大東亜戦争から太平洋戦争に至る一連の流れを以下のように認識していたからだ。 「この戦争が帝国主義戦争であり、徹頭徹尾独占資本、あるいは金融資本の利益のための戦争であって、国民大衆の戦争のためではない。こんな戦争で戦死することなど考えてはならぬ、自分の任務でないところで死ぬのは愚かしいことだ」 事実、東京帝国大学から予備学生に志願する人数は非常に少なかった。 佐々木八郎少尉は、東京帝大でも数少ない予備学生に志願したひとりであり、今時戦争に対する考え方で、他の東京帝大生とは考え方を異にしていた。 「資本主義の機構はマルクスに至ってほぼ完全に科学的に解明し尽くされた。以後資本主義は、幾度かの景気変動の波を経て高度化し、ついには現在全面的な崩壊の危機に直面している。 今や資本主義の高次の段階ではなく、今日転換期のまっただ中にある。 この転換期にあたり、我々は新しいエトスに導かれてこれから作り上げるべき社会像を描かなければならない」 そして、自らが予備学生から特攻へと志願した理由を次のように述べている。 「資本主義のエトスは個人主義であった。 これに対し、新しいエトスは人への愛に立った全体主義でなければならない。 国家でも世界でもよい、社会全体のために働くものの安全は社会全体が保証するところに新しい時代のエトスがある。 誰もが自分のことを心配する必要のない社会を作り上げるのが我々の任務なのだ。 旧社会の残存勢力を代表する米英を撃破するとともに、我が国が新社会の担い手として戦争を通じて新しい生命を生み出して行かねばならない」 佐々木八郎にとっての戦いとは、時代との戦いであったことが窺い知れる記録であり、彼は自らの気高い理想のために、進んで次の時代の礎たらんとしたのである。 こういった考えは、佐々木だけに限らず、他の特攻隊員の記録からもその内面が窺い知れる。 「たった一人の偉大なる指導者が居なかったために、みんなが勝手な音調を発したために、ついに喧噪極まりない社会を出現したのであった。 もっと理性的な落ち着いた人間社会が建設されねばならぬ」 と、台北帝国大学出身の岡部平一少尉も日本の指導者に痛烈な批判をぶつけながらも、特攻に散ってた。 彼らは、自らの志を持ちながらも、死と正面から向き合い、悩んだ。 前出の佐々木八郎も、高い理想に燃える反面、迫りくる死と正面から対峙した。 「自分一個のもつ意義というものを自覚してその知遇に報いよう、力の限り働こうと震い立つのである。 しかしまた、主計や軍令部付になるのは優秀な成績の者だけであり、才能ものない輩が技術、医務科の用のために安全な場所に残って、しかもちやほやされたりするのを見ていると、我々の如きは国家のために最も危険な所に置かれるのであると思い、かつて労働者が資本家に搾取される中で労働を厭う気分と似たものを感じるのである」 特攻の方々の手紙や日記の中には、内面を正直に吐露した文章が少ない。彼らは己の迷いを他人に知られることを最大の恥としたからである。 死に対する様々な葛藤があったにも関わらず、己を必死に乗り越えて超然とした態度で突撃していった。 世の中の不条理に憤りながらも、それを受け入れて次の時代に託していったのだ。 そんな彼らの心の軌跡がぎゅっと詰まった一冊。 ただただ、頭が下がる思いでした。

Posted byブクログ