哲学の復興 の商品レビュー
『哲学の復興』(講談社現代新書)に収録された5編をはじめ、東洋の伝統思想によって西洋哲学の欠陥を克服するという、著者の基本的なスタンスを示した論考をまとめています。 デカルト以後の西洋近代哲学と、そこから派生した自然科学的世界観においては、「生ける自然」が顧みられていないと著者...
『哲学の復興』(講談社現代新書)に収録された5編をはじめ、東洋の伝統思想によって西洋哲学の欠陥を克服するという、著者の基本的なスタンスを示した論考をまとめています。 デカルト以後の西洋近代哲学と、そこから派生した自然科学的世界観においては、「生ける自然」が顧みられていないと著者は述べます。ただしこうした問題は、近代よりもはるか以前から西洋思想のうちに存在していました。ソクラテスは死刑判決に服して死を慫慂として受け入れることで、西洋に「理性信仰」を打ち立てることになりました。他方、キリスト教の創始者であるイエスは、十字架上に死することで、終末観に基づく「歴史信仰」を人びとにもたらしました。 しかし時代が下るとともに、西洋の「理性信仰」と「歴史信仰」は、「物質信仰」と「進歩信仰」に変質し、「死」は忘却されてしまうことになります。この事態に鋭い批判の矢を放ったのが、ニーチェらの実存哲学者たちでした。しかし彼らの思想も、人間の主体的不安と責任のみに立脚しており、「生ける自然」のなかで人間の死を見つめる知恵を確立するには至っていないと著者はいいます。 西洋哲学に欠けていた「死」の問題を深く問うたのが仏教でした。とはいうものの、現在の仏教はそうした思想的可能性を埋もれさせてしまっています。たとえば、仏教的な自然への信頼観が西洋の物質主義的な自然観と結びついて、いくら人間が酷使しても自然はいつも豊穣な恵みを与えてくれるはずだという「甘え」が現在の日本人の意識を支配しています。こうした態度をあらためて、西洋哲学の欠陥を乗り越えるような思想的可能性を掘り下げることが、これからのわれわれの課題だと著者は主張します。 それなりに興味深く読めたところもあるのですが、議論の基調にあるのは紋切り型の西洋文明批判にすぎないという気もします。
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