書物奇縁 の商品レビュー
著者は、大学教員。ある日、電池が目の前をゆっくりと動きだし、蔵書でとうとう床が傾いたと慌てて越した。究極の座右の書を求め、増殖する古書が引き寄せた、「他人にそっと知られたい」奇譚をつづる。 学生時代、「宝物を買ってくれないかい」と古書店の主に声を掛けられたことがあった。「宝...
著者は、大学教員。ある日、電池が目の前をゆっくりと動きだし、蔵書でとうとう床が傾いたと慌てて越した。究極の座右の書を求め、増殖する古書が引き寄せた、「他人にそっと知られたい」奇譚をつづる。 学生時代、「宝物を買ってくれないかい」と古書店の主に声を掛けられたことがあった。「宝物?」と聞き返すと、「質問は、たった、一度しか、できないよ」と寺山修司の知られた台詞。価格は5万円、「金は後でいい」と託された風呂敷包みには、寺山が学生時代に作ったクラス誌「風」などの珍品が。しかし一週間もたたず閉店、貼り紙は店じまいを告げ、その脇に、「一体僕はどこにいて、そしてだれを待っているのだろうか」と寺山の詩の一節が残された。 ほかに、古書の天皇と呼ばれた反町茂雄や、プルースト研究で知られる仏文学者の吉田城、近年作品が読まれている小説家・佐藤泰志ら、玄人好みの人物が語られる。 (「週刊朝日」 2011/8/26)
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