根津権現裏 の商品レビュー
骨髄炎と貧乏に悩まされる男が自死した友人の兄に対して語る部分が大半。古めかしい表現に見えるが金と女に渇望している様な状況は時代を問わず共感できると思われる。 岡田の情緒不安定ぶりも太平洋戦争時代なら軟弱者として一喝に処されるだろうが心の安泰の無い現代(そもそも安泰する時代もないだ...
骨髄炎と貧乏に悩まされる男が自死した友人の兄に対して語る部分が大半。古めかしい表現に見えるが金と女に渇望している様な状況は時代を問わず共感できると思われる。 岡田の情緒不安定ぶりも太平洋戦争時代なら軟弱者として一喝に処されるだろうが心の安泰の無い現代(そもそも安泰する時代もないだろうが)に合っているかもしれない。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
・角川文庫でも出ているみたいだが、新潮文庫で読む。新潮社での刊行に意義があるのだと西村賢太。 ・冒頭でうわっと驚いた。とにかく文末が「~のだ」「~のだ」続くのだ。独自に築き上げた文体というよりは、単に稚拙な匂い。 ・手短につづめてしまえば、友人岡田の縊死にまつわるくさぐさ。恨みは貧困(自己都合っ)と病気(足or蓄膿)。 ・身近な者の縊死ということで連想した中上健次ほどの広がりもないし、やや文脈は異なるが安岡章太郎「海辺の光景」ほどの愛惜もない、まあただの身辺雑記を長く書いて小説にしようといた感じ。 ・とか書くと、歿後弟子の西村氏は怒るだろうし、おそらく多いとはいえまい藤澤熱心読者にはムカつかれるかもしれないが、……果たして西村賢太というフィルターなしでこの小説が輝いているかと言えば、うーん。 ・もちろん何も前情報なく出会い事故的に読んだ上、たまたま心身の状態にフィットすれば、狂信的に面白がれない側面もないではない。 ・結構サディスティックな物言いを、字の文でも会話中でもするあたり、ついくすりと。内心刺してやりたいと思ったとか、蹴殺してやろうかとか。女の外見への嘲弄と面罵、果ては弟は急病死したと主張する故人の兄に、いや自殺でしょうと食い下がるとか。しかも友人の縊死体はさぞや汚かっただろうと想像するとか。このへんの語り手の真面目と常軌逸しっぷりのバランスが面白そう。 ・作者自身の意図とは全然違う可能性は高いが、(フィリップ・マーロウ的に)友人の死を調査するハードボイルドを、ひたすら貧窮や悲惨の方向に脱臼させることでユーモアを醸し出す作風、と見做して遊べるかもしれない。 ・が、とはいえこれも西村賢太の掌の上でワイン揺らしされているだけなのかもしれない。 ・はっきりいえば、「慊い」「根がなになに」「するんだなあ」「ほきだしてやった」「例に拠って例の如く」繰り返し、など、あー賢太が書いてたなというフレーズが出るたびにうふっと感じた、ということは、もはや藤澤の書作も半ば賢太の過去作と同化しているようだな、と感じた。 ・もちろん本作が賢太というひとりにインパクトを与え結果的に掬い上げた(一念)という点で意義深いが、その文脈なしにはなかなか楽しむのは難しいのではないか。 ・ところで賢太は相当演技的な作家だったし、その演技性は本人の談にとどまらず編集者や朝日書林の荒川義雄氏も語っているところだが、田中英光研究では埒が明くまいと藤澤に切り替えた発端はいずれにしても、こうして文庫で埋もれた作家を届けてくれた営為は、やはり有難い。残念ながら not for me だったが、面白みは十分にわかったし、数年数十年スパンで自分は一生藤澤でいくという読者が生まれる可能性を撒いたというだけで、意義深い。
Posted by
多くの方と同様に、西村賢太作品からの繋がりで読んだ。 百年前の作品の割に文体としては読み辛くはないかな、と思ったが、巻末の解説によれば、発表当時から『古めかしい文体』という評価だったそう。 内容に関しては、友人の自死と自分の貧乏と病気、という救いのない陰気極まり内容だが、心の...
多くの方と同様に、西村賢太作品からの繋がりで読んだ。 百年前の作品の割に文体としては読み辛くはないかな、と思ったが、巻末の解説によれば、発表当時から『古めかしい文体』という評価だったそう。 内容に関しては、友人の自死と自分の貧乏と病気、という救いのない陰気極まり内容だが、心の動き自体は現代人と大差なく、テクノロジーと社会の生産性以外のところでは人間の営みは延々同じことを繰り返しているのだなあ、と思った。
Posted by
生まれつき貧乏で、がために治らない病気に苦しみ、しかも良心ばかりは備わっているがために身動きも取れない
Posted by
ある種の潔癖症で、誰に対しても悪者にはなりたくない いつまでも中庸でありつづけたい つまりモラトリアム…要するに無責任な立場にしがみついている しかし無責任ゆえの不用意さで失言を発するわ 潔癖症ゆえの馬鹿正直さで自分の立場を危うくするわ 不安のあまりに「許す」の一言を強要して言質...
ある種の潔癖症で、誰に対しても悪者にはなりたくない いつまでも中庸でありつづけたい つまりモラトリアム…要するに無責任な立場にしがみついている しかし無責任ゆえの不用意さで失言を発するわ 潔癖症ゆえの馬鹿正直さで自分の立場を危うくするわ 不安のあまりに「許す」の一言を強要して言質をとろうとした挙げ句 なんも関係ない友人のところに泣きついて ホモとノンケの悲惨な愁嘆場みたいに無益な言い争いを繰り広げるわで まったくろくでもない野郎なんだ しかしまあ、世間じゃわりによくある青春の1コマなのかもしれない 死ぬこたあないと思う けれども、カネの無い男が出世するには、一つの疵も命とりなのだ そんなふうに思い詰めておかしくなっていく これだけのものを書きながら、永らく忘れられた作家であったのは 誰もが我が身に覚えある類の醜さをストレートに出したことに加え 学歴偏重主義に批判を加えたことも大きかったのだろう しかしそれにしても長すぎるというか 女のエピソードや終盤の内省的な部分はもっと短くできたんじゃないか
Posted by
ねちっこい文章が西村ケンタそっくり。というか、まぁ西村ケンタが真似したんだろうけど。中身は西村ケンタの方が数倍面白い。
Posted by
金がないばかりに不幸せになっていく人たちのはなし、詳細については西村勘太の解説を読まれたし、解説から読んでみてそれで小説を読みたいと思う人であれば、この本は価値があるのかもしれない。
Posted by
小説の柱となっているのは友人の自殺と貧しさ。殉後弟子である西村賢太の作品を読み慣れている人にはお馴染みのあの独特な文体で己の貧しさやあきたらなさについて滔々と描かれている。解説にもあったけれどそういう良くも悪くも自然主義的な特徴を多分に備えた作品として読んでいたけれど、最終章です...
小説の柱となっているのは友人の自殺と貧しさ。殉後弟子である西村賢太の作品を読み慣れている人にはお馴染みのあの独特な文体で己の貧しさやあきたらなさについて滔々と描かれている。解説にもあったけれどそういう良くも悪くも自然主義的な特徴を多分に備えた作品として読んでいたけれど、最終章ですべてのアイテムが回収されているのと、あとやはり構成も巧みだと感じた。あの岡田の反復はどうだろうなどと思いながら読んではいたけど、結果として当然必要な反復であったわけで。省略になれている現代の小説読者からみると些か奇異に映るかもしれない。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
西村賢太さんを調べており、徐々に藤澤淸造さんにも迫らなければならない必要が出てきたため、かなりしぶしぶ手に取った。しかし、最初こそいやいやではあったものの、次第に「藤澤さんって面白いお人ですね」と考えが変わってきた。 作中に出てくる宮部なる人と私は、おそらくおぼっちゃまという点で共通しているのだが、金がらみの大胆さにおいてかなり異なる。預り金を猫糞するのに、自分のアホらしいほどの素直さ(口が滑りやすいだけだが)は向いていないのだ。まあ、そんなわけで、どっちかといえば親のすねかじりの自分が読んでみて、「面白い」と思われた藤澤さん自身は内心複雑かと申し訳ないのだが、友人が突如寝ている自分に絡みついてきて、しかも泣き通しているなどという異様な状況に、怒っているはずなのに人の良さというか、面倒見の良さというのか、悪い人ではないのだと感じられる面が見えて、大層面白いのです。 かなり読みにくい印象が文章や内容(女性はあんまり読みたくない感じかもしれぬが)にありますが、時間のある時に斜め読みしていけばいいのではないだろうか。 いずれにしろ、貧乏から来る将来へのいわく言い難い不安を持つ人に、共感を得てもらえそうではある。だが、一方でその不安に押しつぶされてしまうかもしれないので、読む際は自分に向いているか、向いていないかを思いながら進めていくといいかもしれない。 追記:ワタシの一言 ――他に往くべき途を失って、遂に死に逃れるより外には、もう何らの手段方法も尽きてしまって、いよいよ死に就く時には、せめて其の場所や方法だけは、出来るだけ清く潔くありたいと思う。 貧困故に公園で狂凍死した著者のことを思うと、目を背けたくなる一言である。
Posted by
西村賢太の絡みで読む。 なるほど、これが私小説かという感想。 一つ一つの表現が、毒々しい内面をまんま反映させている。 これには、感心。 だが、小説として面白かったかどうかはまた別。 ただもう一度読んでみたいと思わせる、変わった感じもあって・・、評価が出来ないことはまだ自分の文学...
西村賢太の絡みで読む。 なるほど、これが私小説かという感想。 一つ一つの表現が、毒々しい内面をまんま反映させている。 これには、感心。 だが、小説として面白かったかどうかはまた別。 ただもう一度読んでみたいと思わせる、変わった感じもあって・・、評価が出来ないことはまだ自分の文学性が至らないためか。 新潮文庫の帯、「私は、ただ一図に金が欲しい。」 これが全て。
Posted by