「京都学派」の哲学 の商品レビュー
著者による「近代日本思想論」シリーズの第ニ巻で、西田幾多郎と三木清、さらに高山岩男らによって推進された「世界史の哲学」の、思想史的な位置づけについて論じている本です。 「京都学派」は、西田幾多郎を中心とする日本の独創的な哲学を構築したグループとして理解されていますが、本書ではこ...
著者による「近代日本思想論」シリーズの第ニ巻で、西田幾多郎と三木清、さらに高山岩男らによって推進された「世界史の哲学」の、思想史的な位置づけについて論じている本です。 「京都学派」は、西田幾多郎を中心とする日本の独創的な哲学を構築したグループとして理解されていますが、本書ではこうした見方はとられていません。著者はマルクス主義に好意的な観点に立って、とりわけ太平洋戦争へのかかわりかたにおいて京都学派の思想家たち左右両翼へと別れていく道をとったことを重視し、その歩みを近代日本の思想史的課題に対する応答の試みとしてとらえ、その評価をおこなっています。 むろん著者は、三木清や戸坂潤といったマルクス主義を受容した思想家たちに対して好意的で、「世界史の哲学」に対しては批判的です。また西田哲学についても、とりわけ「行為的直観」の思想がマルクスの哲学に通じる点を見いだしながらも、客観的観念論の限界を脱していないと指摘します。 他方、太平洋戦争へのかかわりについては、西田が帝国主義的な流れを規制しようとする理念的な試みたものの、それが現実を理念的に糊塗・隠蔽するものになったことを厳しく指摘し、現実を止揚することをめざした三木の「昭和研究会」における活動に相対的に高い評価をあたえています。 京都学派の「哲学」そのものではなく、現実とのかかわりをメイン・テーマにした本で、やや期待していた内容とは異なりましたが、それなりに興味深く読みました。
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