渡邊二郎著作集(第9巻) の商品レビュー
『構造と解釈』と『英米哲学入門』(ともにちくま学芸文庫)のほか、三編の論考を収録しています。 著者はハイデガーを中心に、ドイツ哲学を専門とする研究者ですが、『構造と解釈』ではレヴィ=ストロースを中心にフランス現代思想が、『英米哲学入門』ではいわゆる分析哲学がとりあげられています...
『構造と解釈』と『英米哲学入門』(ともにちくま学芸文庫)のほか、三編の論考を収録しています。 著者はハイデガーを中心に、ドイツ哲学を専門とする研究者ですが、『構造と解釈』ではレヴィ=ストロースを中心にフランス現代思想が、『英米哲学入門』ではいわゆる分析哲学がとりあげられています。どちらも放送大学で著者がおこなった講義にもとづく内容ですが、中立的な立場からの解説ではなく、著者自身の立場からの批評が随所にさしはさまれています。 『構造と解釈』では、リクールの構造主義批判に依拠しつつ、客観的な「構造」の背後に主体的な解釈の営みが存在することを指摘し、ディルタイ、ハイデガー、ガダマーといった解釈学の立場に立つ思想家たちの紹介がなされています。レヴィ=ストロースの構造主義については、本書のような批判も可能かもしれませんが、いわば精神分析の立場からカント哲学の課題に取り組んだと解釈することのできるラカンや、ニーチェの系譜学の方法を受け継ぎながら「人間の終焉」を語ったフーコーのばあいには、またちがった見かたもできたのではないかという気がします。 『英米哲学入門』では、「言語論的転回」以降の英米哲学の歩みを振り返ったローティの議論が紹介され、つづいてラッセルや論理実証主義、クワイン、そしてストローソンやオースティンなど日常言語学派の仕事が解説されています。著者は、英米哲学の「唯名論」には同調せず、「存在論」というより根源的な問題の領域があるのではないかと主張しています。いわゆる「大陸哲学」の立場から「分析哲学」に対して寄せられる不満が明瞭に語られており、そうした意味では興味深く読みました。ただ、問題の局面を限定したうえで明晰化をめざしてきた英米哲学のこれまでの成果が読みとりにくく、著者の批判もやや性急にすぎるように感じられます。
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