黒雲の下で卵をあたためる の商品レビュー
なんとなく皆んなが感じている(だろう)ことを、うまく掬い上げて言語化してくれたようなエッセイ集。例えば、自分も含め電車内で携帯電話(今なら差し詰めスマートフォンか)を熱心に覗き込む人々の奇妙さ、とか。人の背中を見て感じる、漠然とした不安だとか。
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『屋上への誘惑』以来の、2冊目のエッセイ集。『図書』に連載されていたものに書き下ろしを2本加えたもの。 本書のタイトルは、一つのエッセイのタイトルでもあり、それはギュンター・グラスの詩にある風景から来ている。しかしこれだけではなく、本書全体を貫くテーマにぴったりのタイトルだとわ...
『屋上への誘惑』以来の、2冊目のエッセイ集。『図書』に連載されていたものに書き下ろしを2本加えたもの。 本書のタイトルは、一つのエッセイのタイトルでもあり、それはギュンター・グラスの詩にある風景から来ている。しかしこれだけではなく、本書全体を貫くテーマにぴったりのタイトルだとわたしは思った。テーマといってもわたしが本書を読んで勝手に感じたものだが。 それは何かというと、「不安」。不安から何かを大切に守ろうとする姿が、このタイトルと重なる。死の影、方向感覚の喪失、彫像の中に見る生命力、コントロールできない獣性。読者はさまざまな不安な場面に出会い、しかしそのつど優しい安心感もほっこりとそこにある。 この居心地の良さは、まさしく、まるで自分があたためられている卵にでもなったような感覚だ。そう、読んでいるうちに、いつの間にか、著者の美しく編んだ日本語が、母のように包んでいる。上品な装丁も、その一助となって。いつまでもこの中に漂っていたい、とついつい思ってしまう。(2006.1.31)
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