日本史へのいざない 考えながら学ぼう の商品レビュー
本書は元高校の歴史教師であり、大学で地歴科教育法の授業を担当した著者による、著者の教師としての実践をもとにした内容となっています。具体的には、縄文から近現代までを22のテーマに分け、各テーマごとにいくつかの質問をしながら展開していくという、まるでこちらが著者の授業を受けている感覚...
本書は元高校の歴史教師であり、大学で地歴科教育法の授業を担当した著者による、著者の教師としての実践をもとにした内容となっています。具体的には、縄文から近現代までを22のテーマに分け、各テーマごとにいくつかの質問をしながら展開していくという、まるでこちらが著者の授業を受けている感覚となるよう書かれています。本書が出たのが2006年にもかかわらず、各テーマの末尾に提示されている参考文献が古いためか、果たして最新の日本史の研究を踏まえた内容なのか、世界史が専門で日本史は門外漢の私は少しく不安になります。しかし、いろいろと興味を引く内容がいくつも書かれてあり、面白く読むことができました。例えば「縄文・弥生・鎌倉・江戸・現代」を平均身長の高い順から並べるとどうなるかという質問は、決して試験には聞かれる内容ではありませんが、非常に興味のそそられる、そして生徒の思考力を涵養する深い問いであると感じました。ちなみに答えのヒントは食生活の変化で、現代→弥生→鎌倉→縄文→江戸となります。他にも、江戸時代の年貢率(これを免といいます)は五公五民ないしは四公六民で非常に高く、農民は困窮していたと思われがちですが、実は最後の総検地は元禄時代に行われたため、それ以後の新田は計算に入っておらず、また商品作物の進展もあり、実質的に農民の総収入における税の割合は10%に満たないということ、蒸気船の積める石炭の量はせいぜい1週間程度で、アメリカはどうしても補給地が必要だったこと、日清戦争の賠償金2億両(+遼東半島還付の代償金3000万両)は今の金額に直すと約360兆円となることなどは授業でも生徒が興味を持つ内容ではないかと思います。 最後に著者は「「歴史をなぜ学ぶのか?」という内容が、よく教科書の冒頭にとりあげられています。しかし私は、これは順序が逆だと思っています。まずは具体的な内容を学んで、それが終わった時点で、歴史とは何かという問いに対する答えを、生徒自身の手でつかませる方が正しいのではないでしょうか」(196ページ)と述べています。私にとっては目からウロコの指摘で、非常に考えさせられる意見でした。 本書の続編が今年5月に出ているようなので、是非読ませていただきたいと思います。
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