この世の涯てまで、よろしく の商品レビュー
死後50年経って突然蘇ったアルトゥア。ショパン、ショスタコーヴィチなどの香りのする音楽小説でもある。ナチスによるパリの占領時代と現代を交互に描きながら、幽霊の係わる殺人事件の謎に迫る。ミステリーとしての面白さにはかけるが、全体を包む雰囲気が好ましい。
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1949年に死んだはずのピアニスト、アルトゥア・ゴルトシュテルンは、50年後の1999年、突然、ハノーファーのカフェで自分が甦っていることに気付く。変人揃いの音楽学校の生徒たちと知り合い、現代の音楽に唖然としつつ、自分がなぜ、どのように死んだのか、徐々に記憶を取り戻していく。 ア...
1949年に死んだはずのピアニスト、アルトゥア・ゴルトシュテルンは、50年後の1999年、突然、ハノーファーのカフェで自分が甦っていることに気付く。変人揃いの音楽学校の生徒たちと知り合い、現代の音楽に唖然としつつ、自分がなぜ、どのように死んだのか、徐々に記憶を取り戻していく。 アルトゥアの前に現れる、昔の友人や謎の怪人。そして起こる殺人事件。生者・死者入り乱れての大活劇が繰り広げられる。 作中に多くのクラシック曲がちりばめられて、音楽劇、と言えばよいのか、なかなか野心的な作品である。風変わりで不思議な、つむじ風のような印象を残す。洒脱でやや猥雑で、それでいてどこか哲学的で純粋でもある。 音楽に関する考察も多くを占めるが、主題は愛と誤解、その解消、なのだと思う。 作者、フレドゥン・キアンプールは、ペルシャ人(巻末のあとがきによればイラン人ではないのがミソらしい)とドイツ人の両親を持つピアニスト。経営コンサルタントの経験もあるという人物である。現在は本書の朗読とピアノ演奏を組み合わせたイベントを行っているそうだ。 作者も参加して製作された2枚組のCDというのがドイツでは売られているらしい。本当はそれを聞きながら読むのが、「完成型」のように思う。巻末に主な登場曲のまとめがある。 本書は本国で一部読者に熱狂的に支持されているという。それも何となくうなずける、ちょっと変わったチャーミングなお話である。 *作中、『戦場のピアニスト』や『カサブランカ』を思い出させる場面がある。きっと作者も意図していたのだろう。 *アルトゥア、というのは、アーサーの別の読み方なのだそうで。
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音楽小説としても楽しめる、ファンタジー要素の濃いサスペンス・ミステリ。著者のフレドゥン・キアンプールは、ペルシャ人とドイツ人の両親の元に生まれ、この小説の舞台ともなっているハノーファー音楽大学で学んだピアニストでもある。ピアニストとして社会に出た後、カナダで経営コンサルタントを務...
音楽小説としても楽しめる、ファンタジー要素の濃いサスペンス・ミステリ。著者のフレドゥン・キアンプールは、ペルシャ人とドイツ人の両親の元に生まれ、この小説の舞台ともなっているハノーファー音楽大学で学んだピアニストでもある。ピアニストとして社会に出た後、カナダで経営コンサルタントを務め小説を書き始めたという変わり種。1949年に亡くなった死者が、50年後に甦るという奇想天外な設定から始まるこの物語。甦ったのが若きピアニストなら、迎える時代(1999年)の若者たちも音楽学生。描かれている当世の若者たちの乱痴気ぶりもさることながら、ピアノの腕一つでパリのサロンを渡り歩いてボヘミアンぶりを謳歌していた当時のピアニストも似たり寄ったりだ。一体、幽霊には実体があるのかないのか、この著者は色々な仕掛けでヨーロッパ風の解答を用意している。
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