廃疾かかえて の商品レビュー
あれから著作をあらかた読んだけれど、この短編集がいちばんおもしろかった。貫多と秋恵の同棲シリーズ3編で構成されていて、あいかわらずの修羅場が続くのだが、とくに「瘡瘢旅行」での「今のはアウトだよ」からはじまる情けなくも壮絶なやりとりは出色で、怒り狂う貫多とそれでも追求をやめない秋恵...
あれから著作をあらかた読んだけれど、この短編集がいちばんおもしろかった。貫多と秋恵の同棲シリーズ3編で構成されていて、あいかわらずの修羅場が続くのだが、とくに「瘡瘢旅行」での「今のはアウトだよ」からはじまる情けなくも壮絶なやりとりは出色で、怒り狂う貫多とそれでも追求をやめない秋恵の対比が最高だ。「黙れ、不妊症。てめえみてえな低能と、カンバセーションしてやるぼくじゃねえぞ。何が、セクハラ、だ。昨日今日覚えた言葉を得意気に振り廻すな!」「……やっぱあんたは本当にアウトだよ。最悪のセクハラ男だよ。一種の、性犯罪者だよ」「黙れと言ってるんだ、この、オリモノめが!」って、このへんのくだりなんか名言(迷言?)連発で笑い死ぬかとおもった。直前につづられた畳み掛けるような指摘と、恫喝された直後に放つトドメの一言「あんたは女子の敵だよ」が効いている。(貫多の)暴言と(秋恵の)正論のコントラストが絶妙だ。以前「暗渠の宿」の感想に「著者の分身である主人公は、どちらの短編でもセクハラ&モラハラ三昧のとんでもないミソジニスト。なのに、それらの描写がなんら不快感をもたらさず、それどころかかえって爆笑をうむ不思議」と書いたのだけれど、やはりこの痛快さは秋恵の存在によるところがおおきいのだと気づく。セクハラ、モラハラを臆せず批判し、居直ったミソジニーに猛然と立ち向かう、彼女の気丈さと賢さがあってこそ、主人公のクズぶりがかがやくのだ。
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主人公のダメ男ぶりに拍車がかかり、ダメすぎて笑ってしまうほどで、無頼派といった古風な呼び方で読んだら暗くなっちゃうから違うな、こういうダメさになんかいい呼び方ないかなー、みたいな本。 女が読むとちょっと引いてしまう過剰な暴力描写はこの本にはあまりなく、もはや喧嘩がヒートアップして...
主人公のダメ男ぶりに拍車がかかり、ダメすぎて笑ってしまうほどで、無頼派といった古風な呼び方で読んだら暗くなっちゃうから違うな、こういうダメさになんかいい呼び方ないかなー、みたいな本。 女が読むとちょっと引いてしまう過剰な暴力描写はこの本にはあまりなく、もはや喧嘩がヒートアップしてしまう時期は過ぎ、二人の仲がひえびえとした終焉に向かってることに気づかされる。 うまいなー、とつくづく感心したのは、「膿汁の流れ」の中で、恋人が家を空けた数日間に主人公が放蕩の限りを尽くすくだり。単に主人公が飲み食べ買いしている様子をスケッチしているだけなのにこんなに読ませるなんてすごいし、こんなに楽しそうに遊ぶ男を、しばらく小説の中で見たことなかったよ、どこまで文章が上手なんだこの人は、と思った。
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毎度毎度のサイテーっぷり。 暴力的でたまに優しいことを言うときもあるけど、 そんな時はいちいち決まって恩着せがましい。 そのたびにイラッとするけれど それでもおもしろくて引き込まれてしまうところがやはり素晴らしい。
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想像していたより硬すぎず柔らかすぎず。独特の文体、古風な言葉選びがクセになります。罵詈雑言笑える。賢太ファンにならざるおえない。
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帯に『「秋絵」ものの白眉!』と書いてあって、貫多の六歳年下の同棲している恋人との日々を描いた短篇は「秋絵もの」っていうんだと思うとそれだけでも笑えた。 今回もおよそ共感というものは得られない内容で、若い時の生活を描いた短篇は毎回いろんな出来事が起こるけれど、この「秋絵もの」は、癇...
帯に『「秋絵」ものの白眉!』と書いてあって、貫多の六歳年下の同棲している恋人との日々を描いた短篇は「秋絵もの」っていうんだと思うとそれだけでも笑えた。 今回もおよそ共感というものは得られない内容で、若い時の生活を描いた短篇は毎回いろんな出来事が起こるけれど、この「秋絵もの」は、癇癪おこして恋人を罵倒して、あやまっての繰り返しで毎回同じ。でもやっぱり笑える。『膿汁の流れ』のクライマックスで秋絵に「(中略)膣臭女めが」とののしっておきながら、半ページ先では「(中略)もう仲直りしよう。ごめんね。ぼくはどうしてもおまえが好きなんだ」とくる。何とか仲たがいせずにいたいと思う理由と言うのが……。あえて書かないけど、最低。だから笑える。
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『廃疾かかえて』『瘡瘢旅行』『膿汁の流れ』と、「秋恵」との同棲生活を描いた三篇を収録。 相変わらず自身の暴力慾、私淑する「私小説家」藤澤淸造への異常なまでの愛を描き続けている訳なのだけど、何冊読んでも意外にも飽きることなく次の作品を読みたくなってしまう不思議な作家。 この手の...
『廃疾かかえて』『瘡瘢旅行』『膿汁の流れ』と、「秋恵」との同棲生活を描いた三篇を収録。 相変わらず自身の暴力慾、私淑する「私小説家」藤澤淸造への異常なまでの愛を描き続けている訳なのだけど、何冊読んでも意外にも飽きることなく次の作品を読みたくなってしまう不思議な作家。 この手の私小説作家の癖に「愛すべきバカ」でも「憎み切れないろくでなし」でも無いところが(そんな甘いモンじゃない)、なんとなく「現代の私小説家」といった感じがして好きだ。但し、決して近づきたくはないが。
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6冊目の西村賢太。【代表シリーズ「秋恵」もの】と書いてあるが、これシリーズものだったのか。 正直、インパクト月よ好き毛内容について楽しめていないのか、どの著作を読んでも似た感想が浮かんできてしまうのだが、あれ?と思ったのが『膿汁の流れ』で挿入されている貫多の祖母の回想シーン。...
6冊目の西村賢太。【代表シリーズ「秋恵」もの】と書いてあるが、これシリーズものだったのか。 正直、インパクト月よ好き毛内容について楽しめていないのか、どの著作を読んでも似た感想が浮かんできてしまうのだが、あれ?と思ったのが『膿汁の流れ』で挿入されている貫多の祖母の回想シーン。何かちょっとイイハナシではあるし、p134の自省を読むと自分自身いろいろと思うことはある。多かれ少なかれ誰だってあると思う。 にも拘わらず後半でいつも通りの展開になってしまう体たらく。貫多はこれを廃疾、つまりもう治らないものと諦めている。若い身で自分のウィークポイントを「廃疾」ですなどと言おうものならTPOによっては殴られかねない。それでも読んでいていらだちを感じないのは、自分でも言ってみたいなァと思う心があるのかもしれない。
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「貫多」と「秋恵」、「私」と「女」の、日常を切り取った3篇を収録。暴力度低。 「秋恵」「女」との仲は悪化している日常であり、目に見えて「貫多」「私」から 心が離れていく。『膿汁の流れ』での貫多の散在っぷりが痛快。 MVP:なし
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