経済社会思想史の地平 の商品レビュー
西洋の社会思想・経済思想にかんする著者の論文を収録している本です。 本書の第一部でとりあげられているのはトマス・アクィナスの社会思想と価値論です。著者はまず、この分野におけるわが国の先行研究を概観し、福田徳三と上田辰之助、飯島幡司と五百旗頭真治郎という二つの系譜が存在しているこ...
西洋の社会思想・経済思想にかんする著者の論文を収録している本です。 本書の第一部でとりあげられているのはトマス・アクィナスの社会思想と価値論です。著者はまず、この分野におけるわが国の先行研究を概観し、福田徳三と上田辰之助、飯島幡司と五百旗頭真治郎という二つの系譜が存在していることを解説しています。そのうえで、主として五百旗頭の議論の枠組みを継承しつつ、トマスの所有論や共同体論、あるいは価値論について著者自身の研究成果が提出されています。 次の著者は、近代における自然法思想とその帰結について考察をおこなっています。近代の自然法思想は、アリストテレスからトマスへとつづく思想を糧とすることで形成されてきたことを指摘し、その後の近代の進展のなかで、実証的な立場から否定されていくことになった経緯がたどられます。さらに、人間社会の歴史的進歩を主張するマルクス主義や、既存の社会的・文化的拘束を否定することで個人の自由を実現しようとする新自由主義などの潮流が生じたものの、現代においてこれらの思想にもとづく社会思想は行き詰まっていると著者はいいます。そして、トマスなどに代表されるキリスト教的な立場における社会・経済思想のなかではぐくまれてきた「人格」の概念に注目し、現代の危機を超克する可能性を展望しています。
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