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浪人街無情 の商品レビュー

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2011/08/14

ひと月も過ぎた新刊本が、書店の棚の隅でひっそりと私を待ちわびていました。 小杉健治といえば何年か前に、そのおよそ50冊を超えるデビュー以来精魂込めて書かれた法廷ものを、立て続けに読んでずいぶん堪能させてもらった鮮明な記憶が蘇ってきますが、その時思ったのは、これほどの手練がこの分...

ひと月も過ぎた新刊本が、書店の棚の隅でひっそりと私を待ちわびていました。 小杉健治といえば何年か前に、そのおよそ50冊を超えるデビュー以来精魂込めて書かれた法廷ものを、立て続けに読んでずいぶん堪能させてもらった鮮明な記憶が蘇ってきますが、その時思ったのは、これほどの手練がこの分野だけで満足できるはずはなく、おそらくきっと幾つもの新分野の開拓を果たすはずだというものでした。 巷に雨が降るごとく、ストーリーテラーで奇想天外、意外な展開やら予想もつかない結末などは、たとえ昨日今日書き始めた人でもぽっと思いついて鬼面人を威すことはできても、彼のように匂い立つような言葉を選んで、人の心の奥底まで見通す描写やら外連味のない文章が書けるという達人は、そうそういないと思います。 夢中になって読んでいる間、法廷もの以外いっさい目に入らないで、やがて私の方から遠ざかっていってしまった小杉健治ですが、時代物はすでに2000年を前後して書かれていたことをまったく知りませんでした。 今では猫も杓子も時代小説を書くようになってしまいましたが、凡俗なじゅっぱひとからげの作品とはひと味もふた味も違うのは、書き出しの数行を読んだだけでわかります。 いままさに、文庫本書きおろしという本書で、ひさびさに時代小説の醍醐味を思う存分味わっている最中です。

Posted byブクログ