日本の構造「改革」とTPP の商品レビュー

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2011/11/16

 本書は、現在の世界におけるグローバルな世界経済危機を1982年までさかのぼって詳細に分析した本である。その内容は政治・経済全般にわたっており、安易な反論を許さない緻密さを持っていると思ったが、内容としては経済書というよりは政治的批判書であると思った。  本書は、「構造改革の歴史...

 本書は、現在の世界におけるグローバルな世界経済危機を1982年までさかのぼって詳細に分析した本である。その内容は政治・経済全般にわたっており、安易な反論を許さない緻密さを持っていると思ったが、内容としては経済書というよりは政治的批判書であると思った。  本書は、「構造改革の歴史的淵源」として1982年のアメリカのレーガン大統領の新自由主義的経済政策から説きおこしている。そしてそのアメリカの経済政策が日本にどのような影響を与え、アメリカの圧力によって日本がどのような経済政策を選択しなければならなくなったのかを詳細に解き明かしている。  この内容を読むと、世界の中の日本がいかに対米従属のスタンスを取ってきたのかが良くわかる思いがした。本書によると1950年代から日本とアメリカの間ではいわゆる貿易摩擦という日米の軋轢が現在まで延々と続いており、アメリカの要求と圧力に対して日本が一方的に譲歩していく姿が浮かび上がってくる。日本の中曽根政権下での構造改革の詳細では、アメリカの対日要求の厳しさに四苦八苦する姿が浮かび上がってくるが、その1980年代に日本経済は頂点の爛熟期を迎えるのだからおもしろいと思った。  「日本経済改造計画とその具体化」では、1990年代のクリントン大統領のアメリカが日本の橋本政権に毎年、恒例のように「要望書」を提出し多くの分野での市場開放を要求し、それに橋本政権が橋本「改革」として対応していく姿が詳細に書かれている。  2000年代においては、ブッシュ政権と小泉政権が「同時多発テロ」への政治的対応と「小さな政府の新自由主義的改革」の経済的対応において一緒にダンスを踊る姿が詳細に展開されている。  本書においては「日本経済の構造改革」は常にアメリカの圧力に対応する形で行われてきている。ここまで具体的かつ詳細に展開されると、反論の仕様も無いと思うが、これでは日本の政治家・官僚を過小評価しすぎていないかと思った。  これらの構造改革への、本書のスタンスは明確に否定的である。これらの歴史的なアメリカの経済政策によって、現在の世界経済危機は準備され、これへの対応としてのオバマ大統領の経済政策やTPPが取り上げられている。  本書については、ここまで詳細かつ系統的に展開されると、安易な批判や反論は許されない内容であると感じたが、歴史と経済の見方については、「経済的パフォーマンスを追及するのが正義」という視点も一方ではあると思う。歴史的にはアメリカも日本も本書の政治・経済関係のもとで大きな経済成長を果たしてきていたという事実もあると思う。  本書は、日米の政治的・経済的関係を知る上で体系的な知識を得ることができる良書であると思うが、これについてはもう少し多面的視点で見なければならないとも思った。  本書の最終章の「まとめにかえて」では「日本の経済政策はどうあるべきか」として「需要の創出」をあげているが、今の日本には、経済危機の脱出策として「需要の創出」と「生産性向上」との論争があるとも思うので「需要の創出」で解決できるとの主張はちょっと安易過ぎはしないかとも思った。

Posted byブクログ