「進化論」を書き換える の商品レビュー
「構造主義生物学者」池田清彦による近著(最近著であるかどうかは未確認)。本書の骨子は、現在の進化論の主流であるネオ・ダーウィニズム批判である。つまり、彼らの説明体系では、小さな変異は説明できても、大進化を体系的に理論化できないということなのだ。本書の構成は、進化についてこれまでど...
「構造主義生物学者」池田清彦による近著(最近著であるかどうかは未確認)。本書の骨子は、現在の進化論の主流であるネオ・ダーウィニズム批判である。つまり、彼らの説明体系では、小さな変異は説明できても、大進化を体系的に理論化できないということなのだ。本書の構成は、進化についてこれまでどのように語られてきたのかもよくわかるし、最終章の「進化論の最前線」は説得的な示唆に富む。
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ネオダーウィニズムを批判する本。ネオダーウィニストが学会を席捲していた80年代から,筆者はそのうさんくささを指摘し続けていたというが,最近の研究で破綻がはっきりしてきてるらしい。 ただ多くの一般人は,素朴にネオダーウィニズムの考え方を信用してると思う。ネオダーウィニズムとは,...
ネオダーウィニズムを批判する本。ネオダーウィニストが学会を席捲していた80年代から,筆者はそのうさんくささを指摘し続けていたというが,最近の研究で破綻がはっきりしてきてるらしい。 ただ多くの一般人は,素朴にネオダーウィニズムの考え方を信用してると思う。ネオダーウィニズムとは,ダーウィンの唱えた進化論と,メンデルの遺伝学が結びついてできたパラダイム。遺伝子のランダムな突然変異と,自然選択によって生物集団中で遺伝子が変化することが進化だとする。 遺伝子は生命の設計図であり,親から子へと伝えられる。だから,ネオダーウィニズムの教義によれば,獲得形質は遺伝しない。すなわち,遺伝子以外の原因で現れた形質,例えば筋トレで鍛えた筋肉質な体なんかは子供に遺伝しない。 ネオダーウィニズムでは,突然変異によってできた環境に有利な個体がより多く生き残り,繁殖することによって,その種の中で環境に有利な形質が広まって進化が起こると考える。しかし,これでは種内の進化は説明できても種を超えるような大進化は説明しにくいという。 ネオダーウィニストは触れたがらないが,実は元祖ダーウィンは獲得形質の遺伝を肯定していたというのが意外だった。ダーウィンが生れた1809年にラマルクの『動物哲学』が出ているが,ラマルクが用不用と獲得形質の遺伝を主張したのは有名な話。 生物がよく使う器官を発達させ,そうして獲得された形質が遺伝する。メカニズムは不明だがラマルクはそう考えた。そしてその結果,すべての生物は下等から高等へ一直線に進化していく。環境が同じなら,すべての生物に綺麗な序列が付けられただろうが,環境は様々なので形態は多様化した。 ダーウィンも獲得形質の遺伝は当然として,それが自然淘汰にかかると考えていた。当時は遺伝子という概念がなかったのだから,無理もないことだろう。遺伝子の正体DNAを手に入れたネオダーウィニズムは,獲得形質の遺伝を異端として激しく批判することになる。 だが,遺伝子のみが多細胞生物の形質を決定するわけでないことは,良く考えれば当然だ。遺伝子DNAはたんぱく質の合成をコードしており,それは直接個体の形態に結びつかない。この点は,高校以来生物を学んでいて気にかかっていたことだったりする。 DNAの中でどの部位の遺伝子が働く(発現する)かは,細胞内の環境に依存する。脳細胞も皮膚の細胞も心筋細胞も同一のDNAをもっているが,形態や働きが異なるのは,発現している遺伝子が異なるからだ。 このことを著者は「DNAと解釈系は二つで一つのフィードバックシステムなのだ」と言っている。解釈系とは細胞質。細胞の状態がDNAの発現様式を変えてしまえば,DNAに変化がなくても形態は変化する。 遺伝子が作るたんぱく質は形ではない。形は,細胞の中で発現した様々なたんぱく質が,どの部分にどんな濃度で分布するかによって決まる。その時間的変化が発生だ。そうすると,DNAに変異が起きても,発生のプロセスに変更が生じなければ大進化は起きない。 特に有性生殖をする生物では,突然変異が大きいと,それがいかに適応的でも他の個体と生殖不可能なほど形質がかけ離れていれば,子孫を残すことができずに消滅する。細菌などでは突然変異が大きくても,適応的なら残りうる。多剤耐性細菌の出現などは,単為生殖だからこそ可能。 もちろん多細胞生物にもネオダーウィニズム的プロセスが働かないというわけでなく,漸進的な種内の小進化については関与していると言っていい。だが,高次分類群を構築するような大進化には,ネオダーウィニズムは無縁である。生物の進化はDNAの進化ではない。 DNAの進化は生物の進化と無関係ではないがパラレルでもない。DNAと形が一致しない例がいろいろと挙げられている。ハクウンボクハナフシアブラムシでは,遺伝的に同一(クローン)でも発生パターンの相違によって,形質の異なる兵隊アブラムシと普通のアブラムシが生まれる。 ミジンコは,捕食者の存在の有無で,だるま型とヘルメット型に分かれる。これは捕食者の出す匂い物質により誘導されることが分かっているらしい。こういった現象を表現型多型という。 生物の歴史では,カンブリア紀の初めに「大爆発」が起こって,爆発的な多様化によって現存の動物門がすべて揃ったと考えられている。これ以降新しい門は出現していない。このころの原始的生物だからこそ,このような多様化が可能だったと考えられる。
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3部構成。 第1章は、序章で初期の進化論からネオダーウィニズムを中心とした分岐進化論について。 第2章の部分が、DNAの細かい説明で・・・になってきます。 第3章は、実例を交えながら筆者の構造進化論を。 「38億年 生物進化の旅」を読んでみたくなりました。
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ダーウィニズムだけでは、形態変化は説明できない。 遺伝子のオンオフが切り替わっていくようなことの効果が大きいかも。 また、獲得形質の遺伝もある。
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これもお送りいただく。感謝。 池田先生は遺伝子が全てを決定するという唯「遺伝子」論とでも呼ぶようなものには以前から否定的であった。ドーキンスのセルフィッシュ・ジーンなどにも反対だった。遺伝子ですべて説明できる恋愛論みたいな本はもちろん、論外(もしそうなら、少なくとも男は一夫多妻...
これもお送りいただく。感謝。 池田先生は遺伝子が全てを決定するという唯「遺伝子」論とでも呼ぶようなものには以前から否定的であった。ドーキンスのセルフィッシュ・ジーンなどにも反対だった。遺伝子ですべて説明できる恋愛論みたいな本はもちろん、論外(もしそうなら、少なくとも男は一夫多妻にしたほうが「遺伝子を残す」という観点だけなら有利なはずだけど、そういうオプションを摂る射界のほうが少ないですよねえ)。 ネオダーウィニズムは細菌のような単細胞生物には通用するが、多細胞生物の大進化には適応できない。遺伝子だけでは形質の多様性を説明できないということを、最新の分子生物学、発生学などのデータを駆使して説明されるが、僕は素人なのでこれ以上語るとボロが出る。池田先生の本なので奇想天外な「大きなピクチャー」が示される本かと思いきや、本書はがちがちのデータを駆使したオーソドックスな作りの本であった。 僕はかつて発生学はわりとまじめに勉強していた時期があったので、ホックス遺伝子のところとかは楽しく読んだのだった。
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DNAだけでは進化を説明しきれない。解釈系の存在が不可欠、という考え方を始めて知りました。DNAは生命の設計図といいますが、設計図というより、部品(タンパク質)を作るための金型なんですね。金型だけをいくら調べてもそれらの使われ方を理解しなければ生命という完成品を理解することはでき...
DNAだけでは進化を説明しきれない。解釈系の存在が不可欠、という考え方を始めて知りました。DNAは生命の設計図といいますが、設計図というより、部品(タンパク質)を作るための金型なんですね。金型だけをいくら調べてもそれらの使われ方を理解しなければ生命という完成品を理解することはできないわけです。 では、それらを司っている解釈系とはいったい何者? 専門用語が当たり前のように使われているので、ちょっと読みづらいかも
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