黒い陽炎 の商品レビュー
橋本大二郎知事の時代に発覚し、高知県政を揺るがす大きなスキャンダルとなった「モード・アバンセ事件」をスクープした高知新聞の取材班がまとめた1冊。 1人の県職員が知人に吐露した不安といくつかのキーワードを発端に、記者たちが地道な取材を続け、20億円を超えるの巨額不正融資事件の真相に...
橋本大二郎知事の時代に発覚し、高知県政を揺るがす大きなスキャンダルとなった「モード・アバンセ事件」をスクープした高知新聞の取材班がまとめた1冊。 1人の県職員が知人に吐露した不安といくつかのキーワードを発端に、記者たちが地道な取材を続け、20億円を超えるの巨額不正融資事件の真相に一歩一歩近づいていく様子が克明に描かれており、非常に読み応えがある。また、「伝家の宝刀」百条委員会を設置し、会派の枠を越えて真相を追究した県議会の動きなども興味深く、読んでいてまったく飽きを感じない。 この巨額不正融資事件の背景には、同和問題があった。根深い差別により、長きにわたり同和地区の人々が苦しんできたことは紛れもない事実であり、今も差別は解消されているとは言い難い。それは痛切に反省しなければならないことである。ただし、そうした過去の歴史の「清算」ともいうべき同和対策事業の中で、一部が利権化し、モード・アバンセ事件のように不正の温床となることは絶対に許されないことであり、そうした不正がまた新たな差別を生みかねない。本書の「あとがき」で触れられている、高知新聞に寄せられた被差別部落出身の女性からの1本の電話は、とても考えさせられる。何事でもそうだが、一部の不正な人間のために、罪のない多数の人々がいわれのない中傷・差別を受けるようなことは絶対にあってはならない。モード・アバンセ事件が最初にスクープされてから15年になる。高知新聞には、事件自体はもちろん、こうした周辺問題についてもその後のフォローアップも期待したい(既にされているかもしれないが)。 「同和利権」というキーワードがとりあげられるようになって久しい。しかし、中には「同和利権の“実態”」などとセンセーショナルな見出しを打っているが、内容的にはとんでもない、単に差別的かつ低級なものも多い。この書籍は、そうした低級なものに比べ、しっかりとした事実・真相に即しており、読み手側に「同和問題とは何か」ということを真剣に考えさせてくれる良書だと思う。
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