三毛猫ホームズは階段を上る の商品レビュー
“「ああ……」 と、思わず呟いた。「すてきだわ!」 自分のことを理解してくれる人がいる。分って、同情してくれる人がいる。 何てすてきなことだろう! みすずは、まるで新しい人生が始まったかのような気がして、運ばれて来たコーヒーにミルクも砂糖も入れず、ブラックで飲んだ。 「――苦い!...
“「ああ……」 と、思わず呟いた。「すてきだわ!」 自分のことを理解してくれる人がいる。分って、同情してくれる人がいる。 何てすてきなことだろう! みすずは、まるで新しい人生が始まったかのような気がして、運ばれて来たコーヒーにミルクも砂糖も入れず、ブラックで飲んだ。 「――苦い!でも、おいしいわ」 そうだ。夫に恋人が何人いようと、それが何だろう?あんな夫、あんな女に、自分の人生を台なしにされてたまるものか。 みすずが泣けば、夫は喜んでいる。きっとあの女も喜ぶだろう。 そしてあの義母も……。 誰が。――誰があんな連中を喜ばせてやるもんですか。 みすずは、何か新しいことが始まりそうな予感がしていた。” 三毛猫ホームズはあっさり読めるのが良い。 色々と読者を騙すような表記で展開していくところが楽しい。 “晴美はタオルで顔を拭いて、 「そろそろ出ませんか?」 と言った。 誰かがすぐそばにいる、と感じた。 そのとたん、誰かの手が、晴美の頭を押えつけ、一気に湯の中へ沈めた。 晴美は必死で息を止め、押えつけてくる手から逃れようとした。 お湯を飲み込んだら溺れてしまう。固く口を閉ざし、浴槽の底で体をひねろうとした。 タイルの底はヌルヌルしている。これなら逃げられる! 晴美は相手の手をどかそうとするのでなく、手で底のタイルを力一杯押して、同時に体をねじった。 頭を押えていた相手がバランスを崩した。 晴美はお湯から立ち上がって、大きく息をした。 湯気の中、裸の女が出口へと駆けて行ったが、視界は戻っていなかった。 鼻から少しお湯を吸い込んだのだろう、むせて咳込んだ。 そして――ハッと気付くと、 「綾さん!――浅倉さん!」 と呼んだ。”
Posted by
- 1
- 2