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ためされた地方自治 原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民 の商品レビュー

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4件のお客様レビュー

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2020/07/19

本の奥付を見ると「2007年5月初版発行 2011年8月第二刷発行」とある。つまり、能登半島・珠洲の原発誘致を中心として賛成反対と二分された住民たちの動きを記したこの本の内容は「あの日」の前のもので、改めて「あの日」以降に増刷されている。 著者とすれば今では佐野元春さんの「警告...

本の奥付を見ると「2007年5月初版発行 2011年8月第二刷発行」とある。つまり、能登半島・珠洲の原発誘致を中心として賛成反対と二分された住民たちの動きを記したこの本の内容は「あの日」の前のもので、改めて「あの日」以降に増刷されている。 著者とすれば今では佐野元春さんの「警告どおり計画どおり」と同じ心境かもしれない。しかし本のタイトルにあるように、著者が書こうとした論点は「原発」ではなく、あくまで「地方自治」だ。したがって、著者は原発反対の立場にたつ人だが、この本はその主張ばかりが展開されたものではない。著者は自分が「外人」だと割り切っている(そう言わざるをえない状況に置かれたということなのだが)。珠洲という土地の自然や、何よりもそこに住む人たちに“ほれた”著者が、「自分がみたこと・きいたこと・感じたことを書き残した」ものだ。 ちなみに著者の山秋真さんは女性(この本を買った当初は「まことさん」という男性だと思い込んでました)。 だからってわけじゃないけど、原発賛成/反対を力関係や政治上の争点だけで見ずに、「よそ者」という立場から距離をとった記述なので、誰もが入り込みやすいはず。私も原発に争点を絞った記述だったら、はっきり言って「読もう」とは思わなかっただろう。だって原発賛成、反対どちらであっても、いまさら聞く気がしない。これは原発について考えたくないというのでは決してなくて、賛成/反対どちらの意見を出しても、その論拠の甘さや不完全さを指摘されて、いわゆるツッコミを入れられてイヤーな気にさせられるのがオチだから。 そういうイヤーな思いを山秋さんが代わりに引き受けて山秋さんなりにヒントを導き出してくれてるので、読むほうも原発に賛成/反対に関係なくアプローチできる内容となっている。逆に、分厚くて固い本を読んで「わかったつもり」になるよりか数倍こちらの方がいいってことだ。 そもそも山秋さんと珠洲との最初の出会いは原発が契機ではない。大学時代、旅行の際に偶然出会った同年代の女性とその家族の心安さに魅かれたことだ。その家族から、珠洲市長選(原発計画の賛成反対が争点)の手伝いに誘われそのままどっぷり珠洲につかった、という形。 原発反対ってだけでここまで関われるものではない。山秋さん自身「こうするのが正しいんじゃないか」って決めてからの肝の据わり方が並みじゃないし、何よりも山秋さん自身に珠洲の人を引き付ける魅力があったということだろう。 でも私は原発に直接的に関心がないと書いたけど(なお電力消費者たる都市住民の無関心への批判はこの本でちゃんと触れられている)、原発に特化しなくても、例えば産廃施設とか、米軍基地などといった意見を二分する住民運動に誰もが巻き込まれる可能性はある。 現に、私の今住んでいる大阪市でも特別区設置住民投票が行われ、ほぼ真っ二つに分かれた。大阪の件でもわかるように、どちらがいい/悪いってなかなか結論を出すのは難しい。そんなとき、“素人”の山秋さんの視点、距離感、発想は、答えを出すのはあくまで自分(たち)にしても、有用なヒントとなりうると思う。正直、大学で地方自治などを専門的に学んでるわけではないのに、よくここまでという思いだ。もっと読者が広がってほしい。 (2015/5/17)

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2014/04/12

副題に「原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年」とあるように、石川県珠洲市にわき起こった原発計画をめぐる推進派と反対派の対立や、原発計画用地買収にかかわる脱税裁判などを、市長選の手伝いを頼まれたことからかかわることになった筆者自らの体験を通して語る。意識することなくいつ...

副題に「原発の代理戦争にゆれた能登半島・珠洲市民の13年」とあるように、石川県珠洲市にわき起こった原発計画をめぐる推進派と反対派の対立や、原発計画用地買収にかかわる脱税裁判などを、市長選の手伝いを頼まれたことからかかわることになった筆者自らの体験を通して語る。意識することなくいつの間にか「加害者」の側に組み込まれていく現代社会の仕組みの恐ろしさが浮き彫りにされており、国や大企業の圧倒的なパワーをバックに繰り広げられる反対派への執拗な妨害工作や脅し、嫌がらせなどの実態もよくわかる。

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2013/02/16

 珠洲原発建設を巡るどたばたを,地元推進派から「外人部隊」と呼ばれた若者の一人が現地の運動に参加して感じたことをまとめたドキュメンタリーです。  本書が,全国で読まれることを考えれば,個人名はどうでもいいことです。それよりも,「国」策原発は,どのような姿をして我々のものにやってく...

 珠洲原発建設を巡るどたばたを,地元推進派から「外人部隊」と呼ばれた若者の一人が現地の運動に参加して感じたことをまとめたドキュメンタリーです。  本書が,全国で読まれることを考えれば,個人名はどうでもいいことです。それよりも,「国」策原発は,どのような姿をして我々のものにやってくるのか,がよく分かると思います。  もともとの視点がユニークなので,それだけで読み応えがあります。原発反対運動のど真ん中にいて,その運動を相対化して見ているので,とても新鮮です。  また,第5章「大会社の惑わしと周到なだまくらかし」では,ゼネコンを用いた原発建設予定地の土地取得を巡る事件がクローズアップされています。「脱税裁判」として明るみに出たこの事件について,裁判傍聴を重ねるなかで感じた「大会社と個人とのあまりの力の違い」を知るとき,「田舎もんはみんな被害者」という無力感に襲われます。

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2024/01/14

2024年1月1日の能登地震後、版元の桂書房から直接購入。 2011年8月に再販されたもの。 https://katsurabook.base.shop/items/66727791 ーーーーー 『We』読者のSさんから、この本の著者さんとある会合でたまたま隣になりましたと教...

2024年1月1日の能登地震後、版元の桂書房から直接購入。 2011年8月に再販されたもの。 https://katsurabook.base.shop/items/66727791 ーーーーー 『We』読者のSさんから、この本の著者さんとある会合でたまたま隣になりましたと教えてもらった本。近所の図書館には所蔵がなく、リクエストしたらヨソから相貸できた。 石川の能登といえば、志賀に原発がある(これは北陸電力)。珠洲にも原発計画がもちあがったことがあった(これは関西電力)。著者の山秋さんは、反対派と行動をともにしてきて、僅差で原発賛成派が勝った選挙の無効を訴える裁判をずっと傍聴してきた。これは、その記録。 山秋さんは"外人"とよばれ、「ヨソものが口を出すな」みたいに攻撃されたことがあったと書いていた。関電の電気を使って暮らしている私は、「関電の原発計画」というところで、ヨソものとは思えない。 基地やダムや原発は、地域を二分してしまい、人の関係をずたずたにするものだ、ということはいくつも聞き知っているけれど、読んでいてつらくなった。 選挙のことも、絵に描いたような買収があり、人の関係がねじれ…と、選挙監視団がヨソの国へ送られる前に、ここに来てほしいくらいや、ということが、基地や原発のような、都会には決して作られず、"地域振興"と抱き合わせにのまされるような場所で起こってるんやなあと思った。 いま、毎日新聞の日曜版で、報道カメラマン・三留理男による「目撃された戦後」という連載がある。6月13日は「島を二分した運動」として、60年安保と同じ頃に、伊豆七島、新島のミサイル試射場建設反対運動が起きていたという話が書かれていた。 1957年に持ち上がったこの試射場建設に対して、反対運動が盛り上がり、試射場の完成には6年かかったという。三留は、61年に、賛否で二分された島を長期取材している。 ▼50年代後半から60年ごろは、東京西部の砂川闘争や沖縄の島ぐるみ闘争など軍事基地反対運動が相次いだ。新島闘争は、これらより地味だが、後の三里塚闘争(成田空港建設反対運動)にも似て、大型開発と地域社会という観点では、普遍的な問題を示している。 ▼結局、村議会が試射場建設を認めて反対運動は敗れたが、いまだに、島は後遺症が残っているという。70年安保で僕の助手をした宮川寅男は、新島名産のくさや屋の次男で、小学生のとき、この闘争に遭遇した。宮川によると、島の人同士、今も何かあると「あの人は賛成派だった」「反対派だった」と言う。何十年たってもしこりは残る。開発が地域社会を分断し、壊した構図は、三里塚と同じだ。 珠洲の原発計画は、その後、計画から28年後の2004年に凍結された。それでも、こわれた人の関係は戻らない。

Posted byブクログ