宗教と開発 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
学生時代から細々と関心を持ち続けている「宗教」と、仕事の中でずっと触れてきた「開発」。その両者を結びつけて考えているようなタイトルの本著、読まずにはいられないということで、そこそこの厚さのハードカバーであったが手に取った。 「はじめに」の開発の定義、世界各地の宗教に共通して見られる性質、宗教のカテゴライズ、世界の諸宗教に共通の関心事あたりからして、既に個人的にはかなり面白かった。ヒンドゥー教は多神教だとばかり思っていたが、「唯一神が異なった形で表れていると考えれば一神教」という視点は自分には無く、そこだけでもなるほど、と思わされた。全く違うコンセプトを持つと思っていた仏教、キリスト教、イスラム教、ヒンドゥー教に共通する要素(普遍的に各種宗教が訴求する関心事)がある、というのも個人的には非常に新鮮。 その後は、宗教指導者が人間開発(経済開発ではなく)の諸分野に関心を表明し、実際に具体的なアクションも取っているということを実例を多く交えながら解説。紛争調整、平和構築、貧困や飢餓、環境持続性、保健、教育などの諸分野ごとに章を分けて論が展開されているが、上手くいっている分野とそうでもない分野がはっきり分かれるのだな、というのが実情らしい。 たとえば「聖典の宗教」であるユダヤ教、イスラム教、キリスト教では「自らが真とみなす宗教的信仰のみを受け入れるため排他性を生み、紛争解決や平和構築においてはそれが障害となる可能性が高い。また、欧米では国際関係における思想として「特定の状況下では、国際関係上の通常の規則を無視できる」というものがあり、これが共産主義国家とは取引が通用しないと決めつけることにつながり、調停が進まなくなるという点も指摘されている。ここ数年のロシア×ウクライナや、パレスチナ×イスラエルでの欧米の動き方を見ていると、この思想や理念が根底にあることが見て取れる。 他にも、環境持続性については科学的知識を持つ環境保護主義者と、道徳的権威があり地域における生活様式を形成している宗教団体や指導者が協働できれば強力なイニシアチブを発揮しうるが、相互の不信感を払拭し、協働できる体制を作る必要があるとも指摘。紛争解決と環境持続性の2分野は、まだ課題が多いという印象を受けた。 一方で、宗教団体や組織が伝統的に強いのが保険や教育で、このあたりは実例もふんだんに挙げられており、政府が教育を提供できていないスリランカやカンボジアなどで、仏教が強力な教育アクターとして機能していることなどが紹介されている。このへんは、現地を見ている身としてはすんなりと納得できる。 宗教は万全ではないし、開発もまた然り。それぞれの得意を活かし、不得手を補い合うことで、従来の経済開発一辺倒の考え方から脱却し、「人間開発」の理想形を訴求できるのではないか、と思わされた。
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