サイゴンハートブレーク・ホテル の商品レビュー
著者がアメリカのメディアでヴェトナム戦争を取材していただけに、 前作『キャパになれなかったカメラマン』では アメリカ・メディアの ジャーナリストの人間ドラマだった。 本書は前半でこそ欧米や韓国のジャーナリストを扱っているが、 後半はほぼ日本人ジャーナリストたちの物語だ。...
著者がアメリカのメディアでヴェトナム戦争を取材していただけに、 前作『キャパになれなかったカメラマン』では アメリカ・メディアの ジャーナリストの人間ドラマだった。 本書は前半でこそ欧米や韓国のジャーナリストを扱っているが、 後半はほぼ日本人ジャーナリストたちの物語だ。そして、やはり 今作も根底には温かさが流れている。 メディアの取材制限が緩やかであった分、戦場で命を落とした ジャーナリストも多いのがベトナム戦争だ。日本からも大手メディア、 通信社、フリーランスと多くのジャーナリストがインドシナに渡り、 戦場の「今」を日本に伝えた。そして、そのまま帰らぬ人となった ジャーナリストも多い。 そんなインドシナでの戦いを生き延びた戦友たちに、著者は問う。 「あなたにとってヴェトナム戦争とはなんだったのか?」と。 著者同様、当時は若かった戦友たちも今では60代、70代になって いる。そんな彼らが当時のエピソードを交え、手紙で、メールで、 著者の問い掛けに答えを寄せる。 「ヴェトナム戦争症候群はない」と答えを寄せた人さえも、それぞれ が自分のなかに自分だけの「ヴェトナム」を抱えて生きているのだろう。 「戦争はジャーナリストを出世させる機会を与えるが、彼らの命も 縮める。老カメラマンは、なぜか生きのびて、性懲りもなく繰り言を 続ける。「むかし、むかし、こんな戦争があって、こんなすてきな記者や カメラマンたちがいました」と。まだどこかで新しい戦が続いていると いうのに、旧い戦の話を続けていく。浜の真砂がつきても、何故か、 あの戦争の話のタネはつきないのである。」 語り継ぐべきことがある。沖縄戦、東京大空襲、ヒロシマ・ナガサキ 原爆投下。そして、著者が問い続けるヴェトナムも語り継がれるべき ことだろう。 今回も多くの名作写真が収録されている。報道が報道の役目を果たし ていた良き時代があった。ヴェトナム戦争を、それを取材した人々を 描くことで見つめ直す◎な良書だ。
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