闘いとエロス の商品レビュー
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女性ならではの筆致だろう。 筑豊大正炭鉱で起きた労働争議と男と女をめぐる物語だ。 わたしを語るとき、わたし「たち」を語るとき、わたしたちを語るとき、普段何を意識しているのだろうか? そして女性にしてみれば、身体にあらたな命を宿すこともあり、その「たち」とは男性とは比べ物にならぬ「たち」でありながら、男性や社会、共同体からすると無視される存在としてあり続けたり、時には女性そのものが組織から、男性から蔑まされ、凌辱され、まるで自分の所有物のようにされてしまう。最悪の事態に至っては、死そのものを強要される。本書は、炭鉱夫に殺害され、凌辱される少女の死をも扱っているのだが、あまりにもそれは筆者をして未知の領域へと読者を誘うものとなる。 すなわち少女の死が、わたしたちの死として扱われるからである。 それは誰のものでもない少女の死が、男たちの死ではなく、共同体の中の死ではなく、男や共同体から黙殺されてきた死を女性性から救い出し、本当の意味での連帯の死へと昇華されていく。 筆者のその凄まじいまでの生の声と思いを拾い上げることによって成し得たひとりからの闘争の書である。
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