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聖ヨハネ病院にて・大懴悔 の商品レビュー

3.8

4件のお客様レビュー

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2024/05/26

昭和7年発表の「薔薇盗人」から昭和48年発表の「ブロンズの首」まで、作家人生のほぼ全期間から選んだ作品10編を収録した短編集。  精神を病み、目も見えなくなってしまって病妻とのやり取りを描いた『聖ヨハネ病院にて』のように、上林の作品は、肉親や知人、あるいは故郷に関する思い出など...

昭和7年発表の「薔薇盗人」から昭和48年発表の「ブロンズの首」まで、作家人生のほぼ全期間から選んだ作品10編を収録した短編集。  精神を病み、目も見えなくなってしまって病妻とのやり取りを描いた『聖ヨハネ病院にて』のように、上林の作品は、肉親や知人、あるいは故郷に関する思い出など、自身の生活と経験に材料を取ったものが多い。  収録の「野」では、文学への希望は報われず不遇を感じる作者が目的もなく歩き回るうちに目に止まる野の風景、それが繊細に、磨き上げられた文章で描写される。一字一字に精魂を込めたことが窺われる、文学とは、文章とはこういうものだったなあと思わせてくれる。  脳溢血で倒れたときのどこまでが現実でどこからが幻想なのか良く分からないような生と死のあわいを描いた「白い屋形船」。文章がリアルなタッチだけに、その幻想的な世界が不思議な印象を与える。  自殺してしまった文学の師、川端康成との思い出を綴った「上野桜木町」、自分のブロンズ像を作ってくれた彫刻家、久保孝雄との交友を描いた「ブロンズの首」も、しみじみとする。「ブロンズの首」のラストでは、出版社の編集者から、次の作者の創作集の装幀を早逝した久保君の息子さんに頼もうという話が出る。(調べてみたら、『極楽寺門前』の装幀者が久保制一という人であった。実現したのならば嬉しい話だ。)    

Posted byブクログ

2023/02/19

私小説と創作両方混ざっているので、区別が付きづらい。 病床の人が多く出て来るので明るい話ばかりではない。 描写が細やかでその場の風景が想像しやすい。 「野」「白い屋形船」川端康成との交流を書いた「上野桜木町」が良い。

Posted byブクログ

2022/02/02
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

三浦哲郎が太宰、井伏の次に読んだのが上林暁「聖ヨハネ病院にて」。 一作目、「薔薇盗人」。 冒頭一文目で掴まれた。この一文が私にとってはじめての上林暁の文章であったが、この作家は好きだとおもった。以下に。 校門際のたった一株の痩せた薔薇--然もたった一輪咲いた紅い薔薇の花が、一夜のうちに盗まれてしまった。 この文章から滲む物語の兆しにとても高揚させられた。 つづいて。 「美人画幻想」。「薔薇盗人」からこの作品までの5作を一文一文噛み締めることができず読んでいた。初めての作家だから慣れるまで仕方がないとはいえ、もどかしさを覚えつつ読み進めているときにこの作品のある文章のところで目を瞠ることになる。 小父が70過ぎて女狂いになったことへの主人公の評言である。 私はこの話を聞いたとき、人間の生涯の計り難さに怖気を振るった。 こう小父への気持ちが文章でつづくのであるが、この作品のここまできて「私」のモラルを初めて見た気がして、なんとも意外だった。他の作品も含めここまで読んだ印象だと、70すぎの女狂いに対して面白がるか、賞賛するか、無関心かとおもっていたのである。意外ではあったのだけど、的外れというよりはぐっとひきこまれた。 「上野桜木町」 編集者時代の川端康成との思い出。とても可笑しく読めた。川端康成は読まなきゃとおもいつつ、古都で挫折していたのであるが、川端康成の人間的な面白さを上林暁のおかげで知ることができた。新感覚派の(本作で知ったが、川端康成は新感覚派というものらしい)作品は芸術的要素がおおいため、人間らしさを感じずあまり好きになれないと思っていたが川端がこんなに可笑しい人であると知った今、その文章を改めて味わいたくなっている。随筆でも読もうかしらとおもった。 誰かを描くときに、こんなふうに読者がその人に興味や好感を持って終われるような文章は間違いなく良い作品である。

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2018/10/21

単なる私小説作家ではありませんでした。ご自分の身近な人たちを題材にしながらもそこに人間の普遍性を冷静に分析しています。 この短編集には 「聖ヨハネ病院にて」 「大懺悔」 「薔薇盗人」 「野」 「姫鏡台」 「柳の葉よりも小さな町」 「美人画幻想」 「白い屋形船」 「上野桜木町」 ...

単なる私小説作家ではありませんでした。ご自分の身近な人たちを題材にしながらもそこに人間の普遍性を冷静に分析しています。 この短編集には 「聖ヨハネ病院にて」 「大懺悔」 「薔薇盗人」 「野」 「姫鏡台」 「柳の葉よりも小さな町」 「美人画幻想」 「白い屋形船」 「上野桜木町」 「ブロンズの首」 みんないい文章なのですが、その中でも「上野桜木町」は印象的。 自殺した川端康成との交流を追想しているのですが、はじめは編集者としてお付き合いし、原稿取りに苦戦し、後に自身も作家となって敬愛する先輩となります。ノーベル賞作家となった川端康成の人間味のある姿が生き生きと描かれています。

Posted byブクログ