タブー の商品レビュー
パキスタンの買春街で生きる人々を通して、パキスタン(ひいては世界)の現在を描くノンフィクション。 この本のなかに描かれるのは「売春婦」ではなく、売買春をとりまく状況、ひと、人生。 これは欲しい。おすすめ。 パキスタンの売買春は音楽・踊りと密接につながっている。 売春を生業とする...
パキスタンの買春街で生きる人々を通して、パキスタン(ひいては世界)の現在を描くノンフィクション。 この本のなかに描かれるのは「売春婦」ではなく、売買春をとりまく状況、ひと、人生。 これは欲しい。おすすめ。 パキスタンの売買春は音楽・踊りと密接につながっている。 売春を生業とする職業カーストがあり、音楽を生業とする職業カーストがあり、そこで生きる人たちにはその枠の中のライフコースがあった。 けれど手軽な流行歌やセックスだけの売春が広まって、昔ながらの芸術と一体化したサービスは廃れつつある。 この本は、中流家庭出身の女性研究者が、「隔離された悪所」であるシャーヒー地区を調べたもの。 だけど、特異な「あの場所」を見物して批評しただけの本じゃない。 その場所が存在する理由、その場所で生きる人々、その街を内包したこの国を考察した記録になっている。 買春街には、「若い売春婦」だけが存在するわけじゃない。 買う男はもちろん、元踊り子や未来の踊り子や踊りの師匠や音楽を付ける人や食べ物を売る人、その家族、いろんな人が生活している。 そしてその街はその街だけで完結しているわけではなく、社会の中にその街がある。 学術がちゃんと生きてる。 机の上でああだこうだ論評するんじゃなくて、人と知り合って互いに影響を与えて、生きて行くための力にしている。 仲良くなった踊り子(悪い女)、著者のいとこの女子大生(良い女)、著者(やや例外だけど良い女)の三人が語りあう7章が感動的だった。 そこで語られる「発見」は、フェミニズム的には常識だけど、この人たちには自分でつかんだ真実だ。 母たちは娘たちを社会の犠牲に供しつづける。 だけど彼女たちは、女が劣位に置かれる構造を再生産したいわけじゃない。 この不利な社会のなかで娘たちが生き延びられるように適応のすべを教え込んだ。 結果的には不利な状況を再生産してしまっているけれど決して不幸を望んでいるわけではないんだ。 とか、大事な人を怨まなくていい考え方が優しくて強い。 この終章の気づきを見ると、私は自分で問いを立てられるほど問題を知る前に、教科書で答えを教えてもらってしまったんだなあと思う。 自分のかかえるままならないことに理由をみつけたときの喜びの大きさを思い出して、学術をこんな風に使えるのはいいなあとすごく思った。 訳は丁寧で好感がもてる。でもちょっと甘いかな。 たとえば「赤線地帯」は、許可の有無にかかわらず買春街をさしているっぽい。 第二次世界大戦中の朝鮮半島を「韓国」と書いた部分があるのも気になる。 でもそんなのは些細なことで、この本の価値を損なうほどではない。
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パキスタンの古都ラホールには、かつて、すぐれた歌と音楽で貴族階級につかえた高級娼婦たちがいたとか。日本の芸者によく似たこの制度は、その後、売春撲滅政策のために抑圧され、いわゆる赤線地帯に変貌したこの地域で8年にわたる文化人類学のフィールドワークを行った結果をまとめたのが本書。売春...
パキスタンの古都ラホールには、かつて、すぐれた歌と音楽で貴族階級につかえた高級娼婦たちがいたとか。日本の芸者によく似たこの制度は、その後、売春撲滅政策のために抑圧され、いわゆる赤線地帯に変貌したこの地域で8年にわたる文化人類学のフィールドワークを行った結果をまとめたのが本書。売春して生活する女性たちや音楽家たちの生活や考え、家族関係が興味深いのはもちろんだが、著者自身が、売春地帯の調査をしようとすることに対して受けた数々の妨害や、売春女性たちを自分たちとはまったく異質の、モラル的に劣った人間と見ている社会の側の問題も、すべて小説のように会話で描かれていて、とても読みやすく面白い。
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