世界の演奏家 の商品レビュー
ちくま文庫から出ている、吉田秀和コレクション「世界の指揮者」、「世界のピアニスト」とタイトルは似ているが、本書は前記2冊とは構成が異なる。「世界の指揮者」、「世界のピアニスト」は同名のタイトルで刊行された本に「朝日新聞」や「レコード芸術」の記事を加えたものである。 一方、本書は...
ちくま文庫から出ている、吉田秀和コレクション「世界の指揮者」、「世界のピアニスト」とタイトルは似ているが、本書は前記2冊とは構成が異なる。「世界の指揮者」、「世界のピアニスト」は同名のタイトルで刊行された本に「朝日新聞」や「レコード芸術」の記事を加えたものである。 一方、本書はちくま文庫のオリジナル編集で、1980~2002年の間に「レコード芸術」に連載した記事から39篇を選び、「朝日新聞」や「レコード芸術」の記事を加えたものである(全52篇)。 並びはランダムではなく、弦楽器奏者、弦楽四重奏団、声楽家の三章に分けられている。 第1章【弦楽器奏者】 ミルシテイン、シェリング、ヴァルガ、スーク、ヘッツェル、パールマン、クレーメル、ミンツ、ムター、ヴェンゲーロフ、メニューイン、スターン、バシュメット、今井信子、カザルス、シュタルケル、ロストロポーヴィチ、ビルスマ、マイスキー、ヨーヨー・マ、デュ・プレ、鈴木秀美、ケラス 第2章【弦楽四重奏団】 ジュリアード、メロス、リンゼイ、東京、ドーマス、ハーゲン、フォークラー 第3章【声楽家】 キリ・テ・カナワ、フォン・シュターデ、バトル、ヘンドリックス、フォン・オッター、シェーファー、コジェナー、ホッター、へフリガー、フィッシャー=ディースカウ、プライ、シュライヤー、ベーア、アライサ、ターフェル、マティス、フェリア このような出自であるため、本書は初めて読むのにも関わらず、「これはどこかで読んだな」という既視感のある文章が多く、個人的には新鮮味がなかった。 誰だって、読んだことのあるものを再度読むよりは、初めてのものを読んだ時の方が楽しいし、喜びも大きいことだろう。今まで知らなかったことを新たに知るということは、一番楽しいことの一つだ。 読んだことのない本を読む前は、これは一体どういう本だろうと期待してみるわけだが、読んでみたら、その大半は既に読んだことのあるものだったら、どういう感想になるかは想像に難くないだろう。 たとえば本書に収めれれている、ミルシテイン、シェリング、ヴァルガ、ビルスマ、マイスキー、鈴木秀美はバッハのCDについて書かれたものであるが、これは「吉田秀和作曲家論集6 J・S・バッハ、ハイドン」、河出文庫の「バッハ」にも同じ文章があるため、私は少なくとも3回は読んでいる。 それは私が、吉田秀和氏の本は、ちくま文庫の吉田秀和コレクション以外にも、全集や作曲家論集、河出文庫から出ている文庫本など、合わせるとかなりの数を読んでいるためであるのだが、こうやって何冊も読んでいるとダブりが多いことが、気にはなってくる。 もっとも、何度も収録されてるということは、それだけその文章が優れているという証拠でもある。 吉田氏の文章の魅力は、”この音楽にはそれだけの価値がある、それを大事にしてあげなさいと語りかけてくる慈しみの感情による”と巻末に岡田暁生氏が解説を書いているが、私もまったく同感である。そして、岡田氏は”批評とは対象を裁くことではない。最終的にその使命は「愛を語ること」に尽きる”と感じると結んでいる。 吉田氏の文章形式もユニークである。これも岡田氏の解説を引用すると、”吉田さんは論を急がない。いきなり自分の主張の核心に突き進むようなことをしない”とあるように、テーマと比較するための前振りとして、少し関連する話題を取り上げたり、思い出や、演奏家や作曲家にまつわるエピソード、作品成立のエピソードなどから徐々に本題に入っていく。 唐突に本題に入るのではなく、このような様々な話題が盛り込まれているため、そこに人間的な温かみや親しみやすさを感じるのだろう。それは、コミュニケーションのテクニックである「アイスブレイク」と同じように、和やかさを生む働きがあるように私には感じられる。 久しぶりにちくま文庫で吉田秀和の本を読んで気付いたことは、最近、河出文庫から出てている吉田秀和の本の方が読みやすいということだ。全く同じ文章でも、河出文庫の方はどのCDについて書かれたものか、CDのタイトルが明記されており、巻末には初出データがもれなく記載されているため、わかりやすく親切である。さらに、文字サイズも大きいので、読みやすいということになる。
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